32 / 85
契約④
しおりを挟む
天然自然の障害物だらけのジャングルを全速力で駆け抜けるのは難しい。地図を熟知し、なおかつ体力に自信を持つ者でなければとても無理だ。
島に流れ着いて今日で三日目、体力が豊富とはいえない僕は、植物の楽園に足を踏み入れて早々に徒歩に切り替えた。すでに全身汗まみれだ。
何度身を置いても軽く圧倒されてしまう緑の濃密な匂いに、甘ったるい香りが混じっている。ベンチ作りをしていたときにも何度か嗅いだ、正体不明の腐臭ではなく、熟した果物の芳香だ。
長時間工作をしていたし、全力疾走をした直後でもあるから、疲れがある。食べたいと思った、果実を探した。しかし、どこにも見当たらない。
周囲を見回しているうちに、「ふたご湖」に通じる道にいることに気がつく。
その瞬間、衝動的疾駆から始まった単独行動の目的地が定まった。地面に唾を吐き、少し歩みを速める。
「……衝動的」
そう、まさに衝動的としか言いようがない行動だった。その結果、僕は今、一人で歩いている。
ベンチ作りを任されたときや、ジャングルで狩りを命じられたときなど、一人きりになったことは何回かある。しかし、それらは全てシルヴァーの指示を受けた結果。彼女の干渉を受けない形で一人になったのは、これが初めてだ。
目的地を「ふたご湖」と定めはしたが、そこでなにがしたいという欲求・欲望があるわけではない。
一人きりを満喫したい? 一見それが正解のような気もするけど、違う。なぜならば、シルヴァーから逃れて一人ジャングルの中を歩いている今、僕は落ち着かない気持ちでいる。満喫したり謳歌したりといった気分からは程遠い、というよりも正反対だ。
鬱蒼として不気味なジャングルの中という環境が悪い? 時間が経てば心境にも変化がある? そうは思えない。
そもそも僕は、なぜ逃げ出すという行動をとったのだろう。
衝動的に、なのだから、分析しても仕方がない。そう思いながらも考えずにはいられない。
作り上げたものを壊されるのは、なにも逃げ出さずにはいられないほど酷い仕打ちではない。何時間にも及ぶハードなセックス。頭の中が真っ白になるような侮辱の言葉。それらと比べれば、作りかけのベンチを壊されるなど、なんでもないことではないか。
行為自体が受け入れがたかったのではなく、積もりに積もった鬱憤があのタイミングで溢れ出した、と解釈するべきなのだろう。
ただ、溢れさせる最後とひと押しとなるような言動を、シルヴァーは発信しなかった。
あのとき僕は、こんな生活が続くのは耐えられないと思った。
しかし、そう思った瞬間に駆け出したわけではなかった。耐えがたさを感じたのは確かだが、抑え込めないほど激しくはなかった。
こう考えていくと、衝動的に走り出した、という表現は間違っているように思う。
僕に一人きりを求めて駆け出させたのは、それ以外の要因。
当時を振り返ってみると――どう言えばいいのだろう。感情的になってもいないのに、半ば無理矢理「感情的になり、衝動的に駆け出す自分」を演じたような……。
島に流れ着いて今日で三日目、体力が豊富とはいえない僕は、植物の楽園に足を踏み入れて早々に徒歩に切り替えた。すでに全身汗まみれだ。
何度身を置いても軽く圧倒されてしまう緑の濃密な匂いに、甘ったるい香りが混じっている。ベンチ作りをしていたときにも何度か嗅いだ、正体不明の腐臭ではなく、熟した果物の芳香だ。
長時間工作をしていたし、全力疾走をした直後でもあるから、疲れがある。食べたいと思った、果実を探した。しかし、どこにも見当たらない。
周囲を見回しているうちに、「ふたご湖」に通じる道にいることに気がつく。
その瞬間、衝動的疾駆から始まった単独行動の目的地が定まった。地面に唾を吐き、少し歩みを速める。
「……衝動的」
そう、まさに衝動的としか言いようがない行動だった。その結果、僕は今、一人で歩いている。
ベンチ作りを任されたときや、ジャングルで狩りを命じられたときなど、一人きりになったことは何回かある。しかし、それらは全てシルヴァーの指示を受けた結果。彼女の干渉を受けない形で一人になったのは、これが初めてだ。
目的地を「ふたご湖」と定めはしたが、そこでなにがしたいという欲求・欲望があるわけではない。
一人きりを満喫したい? 一見それが正解のような気もするけど、違う。なぜならば、シルヴァーから逃れて一人ジャングルの中を歩いている今、僕は落ち着かない気持ちでいる。満喫したり謳歌したりといった気分からは程遠い、というよりも正反対だ。
鬱蒼として不気味なジャングルの中という環境が悪い? 時間が経てば心境にも変化がある? そうは思えない。
そもそも僕は、なぜ逃げ出すという行動をとったのだろう。
衝動的に、なのだから、分析しても仕方がない。そう思いながらも考えずにはいられない。
作り上げたものを壊されるのは、なにも逃げ出さずにはいられないほど酷い仕打ちではない。何時間にも及ぶハードなセックス。頭の中が真っ白になるような侮辱の言葉。それらと比べれば、作りかけのベンチを壊されるなど、なんでもないことではないか。
行為自体が受け入れがたかったのではなく、積もりに積もった鬱憤があのタイミングで溢れ出した、と解釈するべきなのだろう。
ただ、溢れさせる最後とひと押しとなるような言動を、シルヴァーは発信しなかった。
あのとき僕は、こんな生活が続くのは耐えられないと思った。
しかし、そう思った瞬間に駆け出したわけではなかった。耐えがたさを感じたのは確かだが、抑え込めないほど激しくはなかった。
こう考えていくと、衝動的に走り出した、という表現は間違っているように思う。
僕に一人きりを求めて駆け出させたのは、それ以外の要因。
当時を振り返ってみると――どう言えばいいのだろう。感情的になってもいないのに、半ば無理矢理「感情的になり、衝動的に駆け出す自分」を演じたような……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる