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契約③
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突然の蛮行に、僕は言葉も出ない。
あっという間に一つ目の束が、三十本ほどの枝と何本かの長い蔓とに分解された。
一体となっていたときは立派に見えたそれは、ただのゴミに見えた。
二個目の解体作業からは格段に手際がよくなった。
二つ目、三つ目と、あっという間にばらばらになる。
自らの足元に落ちかかった枝の何本かを、シルヴァーは忌々しそうに蹴飛ばした。音量以上に激しさが感じられるその音に、僕は我に返った。
「なにをなさるんですか。壊してしまったら、完成までの時間が遠のいてしまいます」
「完成? 箱のような形の物体はベンチとは言わん。お前が無能なのは知っていたが、家具すらも満足に作れないとは思わなかったよ。全く、使えないやつだ」
「いや、ですが……。道具は限られているし、技術も持ち合わせていないですし、理想どおりの形に作るのが難しいのです。一般的な形からは外れますが、できるだけ座り心地のいいものを作るので――」
「黙れ」
強い語気で遮り、足元の枝を力任せに蹴飛ばして振り向く。
ナイフを握りしめたシルヴァーは、場違いにも思えるほど激しい怒りの表情を顔に浮かべていた。
悪寒が背筋を駆け上がった。
「女王自ら奴隷の尻拭いをするんだ。ありがたく思いながら黙って見ていろ」
ナイフのきっさきで、自らと僕との間に広がる虚空を指す。
僕は身じろぎすらできない。
シルヴァーは鼻を鳴らしてその場に屈み、解体作業を再開した。
僕の目の前で、僕が作り上げてきたものが壊されていく――。
堪らない気持ちになってくる。シルヴァーと過ごす中で、一度も抱いたことがない感情が生まれようとしている。体温は緩やかに上昇し、無意識に握りしめていた両手が震え出した。
数をこなすことで速く上手に作れるようになってきたとはいえ、束一つを作るのも楽じゃないんだぞ。長さが同じくらいの、なるべくカーブしていない枝を選んで、ほどけないようにしっかりと縛って、両端を切り揃える。言葉で説明するほど簡単じゃないんだ。枝も蔓も、力の加減を誤れば呆気なく壊れるし、調達するのだっておいそれとはいかない。シルヴァー、あなたは、僕がこれまでに重ねてきた苦労に、どれくらい寄り添ってくれたんだ? 少しでも僕の苦労に思いを馳せてくれたことはあるのか? ベンチ作りだけじゃなくて、僕たちの生活に関わるありとあらゆることに関してそうだ。僕を労わるどころか、思いやるどころか、シルヴァー、あなたは言葉で、腕力で、僕をさんざん虐げてきた。あんなことが永遠にも等しい間続くのだと想像すると、叫びたくなる。とてもではないが耐えれない。あなたはこの島の女王だし、僕の記憶を人質にとっているから、この関係性も仕方ない。あなたとの何時間、何十回にも及ぶ、毎夜の身勝手なセックスも、苦痛ではあるが快感なのも確かなのだから、褒美だと見なして日々を生きていくしかない。今まではそう割り切ってきたが、もう限界だ。もう、こんな暮らしは――。
「う……うああああ!」
僕はシルヴァーに背を向けて駆け出した。
なぜこんな行動をとったのか、自分でも分からなかった。
命令に背く行動をとったら、どうような罰が下されるのか。これまでの経験から想像はつくのに、脇目も振らずに全力疾走した。
後方からシルヴァーの怒声が聞こえた。
肩が跳ね、歩が緩んだ。後ろ髪を思い切り引っ張られる錯覚を覚えた。
それでも、走るのをやめなかった。
僕の体はあっという間にジャングルに消えた。
あっという間に一つ目の束が、三十本ほどの枝と何本かの長い蔓とに分解された。
一体となっていたときは立派に見えたそれは、ただのゴミに見えた。
二個目の解体作業からは格段に手際がよくなった。
二つ目、三つ目と、あっという間にばらばらになる。
自らの足元に落ちかかった枝の何本かを、シルヴァーは忌々しそうに蹴飛ばした。音量以上に激しさが感じられるその音に、僕は我に返った。
「なにをなさるんですか。壊してしまったら、完成までの時間が遠のいてしまいます」
「完成? 箱のような形の物体はベンチとは言わん。お前が無能なのは知っていたが、家具すらも満足に作れないとは思わなかったよ。全く、使えないやつだ」
「いや、ですが……。道具は限られているし、技術も持ち合わせていないですし、理想どおりの形に作るのが難しいのです。一般的な形からは外れますが、できるだけ座り心地のいいものを作るので――」
「黙れ」
強い語気で遮り、足元の枝を力任せに蹴飛ばして振り向く。
ナイフを握りしめたシルヴァーは、場違いにも思えるほど激しい怒りの表情を顔に浮かべていた。
悪寒が背筋を駆け上がった。
「女王自ら奴隷の尻拭いをするんだ。ありがたく思いながら黙って見ていろ」
ナイフのきっさきで、自らと僕との間に広がる虚空を指す。
僕は身じろぎすらできない。
シルヴァーは鼻を鳴らしてその場に屈み、解体作業を再開した。
僕の目の前で、僕が作り上げてきたものが壊されていく――。
堪らない気持ちになってくる。シルヴァーと過ごす中で、一度も抱いたことがない感情が生まれようとしている。体温は緩やかに上昇し、無意識に握りしめていた両手が震え出した。
数をこなすことで速く上手に作れるようになってきたとはいえ、束一つを作るのも楽じゃないんだぞ。長さが同じくらいの、なるべくカーブしていない枝を選んで、ほどけないようにしっかりと縛って、両端を切り揃える。言葉で説明するほど簡単じゃないんだ。枝も蔓も、力の加減を誤れば呆気なく壊れるし、調達するのだっておいそれとはいかない。シルヴァー、あなたは、僕がこれまでに重ねてきた苦労に、どれくらい寄り添ってくれたんだ? 少しでも僕の苦労に思いを馳せてくれたことはあるのか? ベンチ作りだけじゃなくて、僕たちの生活に関わるありとあらゆることに関してそうだ。僕を労わるどころか、思いやるどころか、シルヴァー、あなたは言葉で、腕力で、僕をさんざん虐げてきた。あんなことが永遠にも等しい間続くのだと想像すると、叫びたくなる。とてもではないが耐えれない。あなたはこの島の女王だし、僕の記憶を人質にとっているから、この関係性も仕方ない。あなたとの何時間、何十回にも及ぶ、毎夜の身勝手なセックスも、苦痛ではあるが快感なのも確かなのだから、褒美だと見なして日々を生きていくしかない。今まではそう割り切ってきたが、もう限界だ。もう、こんな暮らしは――。
「う……うああああ!」
僕はシルヴァーに背を向けて駆け出した。
なぜこんな行動をとったのか、自分でも分からなかった。
命令に背く行動をとったら、どうような罰が下されるのか。これまでの経験から想像はつくのに、脇目も振らずに全力疾走した。
後方からシルヴァーの怒声が聞こえた。
肩が跳ね、歩が緩んだ。後ろ髪を思い切り引っ張られる錯覚を覚えた。
それでも、走るのをやめなかった。
僕の体はあっという間にジャングルに消えた。
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