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役人来島⑤
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「クロ、そこで少し待って」
上がろうかどうしようか、シロの隣に立って逡巡していた僕に、舟の上からモノが声をかけてきた。
彼女は舟から飛び降りた。筒状のなにかを小脇に抱えている。舟とシルヴァーとの間に広げられたそれは、真紅の絨毯。高い身分の人間の邸宅に敷かれているような高級品に見える。
「この絨毯の上に積み荷を置いていって。分かっていると思うけど、乱暴には扱わないで」
モノは唇を動かしながら舟の上へと移動し、伝え終えたときには大きな荷物を胸に抱えて浅瀬に着地している。僕は舟に乗り込んだ。
積まれている荷物のほとんどが革袋で、食べ物の匂いが強い。モノが持ったくらいの量を抱え持つ。絨毯のほうを窺うと、彼女は荷物を下ろしているところだった。手つきはていねいだが素早く、引き返してくる足取りもきびきびとしている。
モノに倣ってていねいに、それでいてできる限り迅速に作業をこなす。彼女にライバル意識を抱いたわけではないが、遅れをとりたくない気持ちは常にあった。
二人で手分けしたおかげで、作業は思ったよりも早く完了した。
シルヴァーとモノは、革袋を一つ一つ開けて中を改めはじめた。絨毯に跪き、袋を開けてはなにかしゃべるのがモノ。モノの言葉に頷き、時折言葉を返すのがシルヴァー。運んできた食料について説明を受けているらしい。
僕は彼女たちから少し離れた場所に佇み、やりとりが終わるのを待っている。僕も食べることになる食料ではあるが、なにを食べるか食べないかの決定権を握っているのはシルヴァーだから、僕の出る幕はない。
検分作業が終わると、二人は立ち話をはじめた。
「荷物はお前と奴隷が手分けして――」
そう言っているのは聞こえたが、それから先は音量が一段落ちた。僕に関する話の続きをしているらしい。
「というわけで、今後クロは奴隷としてあたしとこの島で暮らす。よいな」
突然、シルヴァーの声が一段も二段も大きくなった。ずっとモノのほうを向いてしゃべっていたが、僕の名前を出した瞬間、肩越しに僕を振り返った。
「私自身は構わないと思いますし、本国政府からもよい返事が返ってくる可能性が高いのではないでしょうか。ただ、万が一ということもあるので、希望が通らない可能性も念頭に置いておいていただければ」
「ああ、念頭にだけはな。あたしはシロと砂浜を散歩するから、二人で適当にやってくれ。あたしもシロも飽き性だから、さっさと片づけるんだぞ。万が一待たせるようなことになったら、そのときは容赦なくお前たちを痛めつけるからな」
「承知いたしました」の一語を最後まで聞かずに、シルヴァーは自らのかたわらで待機しているシロを促し、波打ち際を歩きはじめた。
モノは遠ざかる背中をしばらく目で追っていたが、おもむろに僕のほうを向いて手招きした。白砂を蹴って駆け寄ると、彼女は絨毯の上の荷物を指差し、
「話は聞こえていた? 陛下の命令で、協力して荷物を小屋まで運ぶことになったから。さっそく取りかかりましょう」
上がろうかどうしようか、シロの隣に立って逡巡していた僕に、舟の上からモノが声をかけてきた。
彼女は舟から飛び降りた。筒状のなにかを小脇に抱えている。舟とシルヴァーとの間に広げられたそれは、真紅の絨毯。高い身分の人間の邸宅に敷かれているような高級品に見える。
「この絨毯の上に積み荷を置いていって。分かっていると思うけど、乱暴には扱わないで」
モノは唇を動かしながら舟の上へと移動し、伝え終えたときには大きな荷物を胸に抱えて浅瀬に着地している。僕は舟に乗り込んだ。
積まれている荷物のほとんどが革袋で、食べ物の匂いが強い。モノが持ったくらいの量を抱え持つ。絨毯のほうを窺うと、彼女は荷物を下ろしているところだった。手つきはていねいだが素早く、引き返してくる足取りもきびきびとしている。
モノに倣ってていねいに、それでいてできる限り迅速に作業をこなす。彼女にライバル意識を抱いたわけではないが、遅れをとりたくない気持ちは常にあった。
二人で手分けしたおかげで、作業は思ったよりも早く完了した。
シルヴァーとモノは、革袋を一つ一つ開けて中を改めはじめた。絨毯に跪き、袋を開けてはなにかしゃべるのがモノ。モノの言葉に頷き、時折言葉を返すのがシルヴァー。運んできた食料について説明を受けているらしい。
僕は彼女たちから少し離れた場所に佇み、やりとりが終わるのを待っている。僕も食べることになる食料ではあるが、なにを食べるか食べないかの決定権を握っているのはシルヴァーだから、僕の出る幕はない。
検分作業が終わると、二人は立ち話をはじめた。
「荷物はお前と奴隷が手分けして――」
そう言っているのは聞こえたが、それから先は音量が一段落ちた。僕に関する話の続きをしているらしい。
「というわけで、今後クロは奴隷としてあたしとこの島で暮らす。よいな」
突然、シルヴァーの声が一段も二段も大きくなった。ずっとモノのほうを向いてしゃべっていたが、僕の名前を出した瞬間、肩越しに僕を振り返った。
「私自身は構わないと思いますし、本国政府からもよい返事が返ってくる可能性が高いのではないでしょうか。ただ、万が一ということもあるので、希望が通らない可能性も念頭に置いておいていただければ」
「ああ、念頭にだけはな。あたしはシロと砂浜を散歩するから、二人で適当にやってくれ。あたしもシロも飽き性だから、さっさと片づけるんだぞ。万が一待たせるようなことになったら、そのときは容赦なくお前たちを痛めつけるからな」
「承知いたしました」の一語を最後まで聞かずに、シルヴァーは自らのかたわらで待機しているシロを促し、波打ち際を歩きはじめた。
モノは遠ざかる背中をしばらく目で追っていたが、おもむろに僕のほうを向いて手招きした。白砂を蹴って駆け寄ると、彼女は絨毯の上の荷物を指差し、
「話は聞こえていた? 陛下の命令で、協力して荷物を小屋まで運ぶことになったから。さっそく取りかかりましょう」
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