少女王とその奴隷

阿波野治

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モノを想う夜①

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 僕はモノと別れて以来、常に彼女のことを想いつづけている。
 想わずにはいられなかった。なにをしていても、どんな時間帯でも、僕の頭の片隅には常にモノが居座っていた。存在感という意味でいえば、シルヴァーを凌駕しているといっても過言ではない、かもしれない。

 無理もない。
 なぜならばモノは、記憶喪失になった僕が二番目に出会った人間だ。島では入手できない食材で作られた食品、というほのめかしがあったとはいえ、直前まで存在を知らされないというお膳立てのもとで対面を果たした相手でもある。衝撃的だったし、尾を引いた。

 同時に、認めなければなるまい。
 衝撃を受けたのは、モノが僕が二番目に出会った人間だからだが、衝撃が尾を引いているのは、彼女の個性によるところが大きいと。

 島に夜の帳が下り、シルヴァーの吐息によって蝋燭の炎は吹き消された。
 僕は定位置に横たわり、女王はベッドに入る。シロは一足も二足も早くベッドの足元で丸くなっていて、今は夢の世界で遊んでいるはずだ。
 シルヴァーは今宵も野獣のように僕の肉体を貪るだろう。しかし、消灯するや否や襲いかかってくるわけではない。女王は不意打ちを好むからだ。だから、今しばらくは思案に浸れる。

 考えるのはやはり、モノのこと。
 これから僕とモノの関係は、仲は、親密さの度合いは、着実に深まっていくだろう。今日の僕たちのやりとりを客観的に眺めた限り、かなり期待が持てる。「かなり」というのは、もしかすると僕の希望が反映された評価かもしれないが、少なくとも悪化はしないはずだ。
 距離が縮まることで、僕とモノの間に具体的になにが起きるのだろう? 僕の貧困な想像力では、残寝ながら鮮明にはイメージできない。
 ただ、女王の奴隷として逃れられない運命にある僕にとって、モノとの関係を育んでいくことは大切なはずだ。懸念されるのは、その結果、シルヴァーとの関係にひずみが生じる事態だが――。

 シーツが掠れる音が思案を遮った。
 シルヴァーが立てた音だ。
 足音が聞こえた。接近してくる。僕を前で止まる。
 こちらから声をかけるべきなのか。それとも、肉体的接触があるまで待って、それが引き金となって目覚めたという演技をするべきなのか。
 僕はいつも迷っているし、これからも夜ごとに迷うのだろう。そう考えると、闇が皮膚を突き破って体内に流入してくるようだ。

 その闇を一息で吹き消す言の葉が、シルヴァーの唇から発信された。

「お前、ずっとモノのことを考えておっただろう」
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