少女王とその奴隷

阿波野治

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役人来島⑧

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 僕をかばう発言を聞いた瞬間、驚愕が胸を襲った。
 その強烈な感情は、着弾すると同時に見る見る退潮していき、入れ替わるようにして戸惑いが進出してきた。
 しかしその感情も、驚愕と似たような曲線を描きながら萎んでいき、僕の体は芯から温まりはじめた。

 モノと出会ったばかりのころは、彼女にはどちらかと言うとネガティブな感情を覚えていた。しかしそれは、モノ個人に対してというよりも、初対面の人間に必然に抱く感情に過ぎなかったのだろう。
 女王と奴隷という絶対的な上下関係で結びつけられている限り、絶対に抱くことはないだろう親しみを、僕はモノに抱いた。そのおかげで、荷物を抱えてジャングルを行き来している間、とても穏やかな気持ちでいられた。

 革袋を破った失態が尾を引いて、荷物を慎重に扱わなければならないという思いが強かったから、緊張感はほぼ変わらない強さで持続している。モノのほうからなにかしゃべりかけてくるわけではないし、こちらから話しかけることもない。それでも、彼女と過ごす時間は快かった。

「おお、ちょうどよかった。このまま長く待たされるようだったら、お前たちをどうしてやろうかと考えていたところだよ」

「三日月浜」に出た瞬間、空になった絨毯に腰を下ろしたシルヴァーがそう声をかけてきた。
 モノが女王へと真っ直ぐに歩み寄り、荷物を全て小屋まで運んだと伝えた。それに続いて、本日三度目となる女性二人きりでの会話になる。

「ああ、そうそう。言い忘れていたが、物資を届ける間隔を変更するように言っておいてくれ。二週間から少し縮めて、十日に」
「クロが島民になったことと関係がおありで?」
「いや、それは無関係だ。二週間は少し長いから、変更するよう伝えたいと前々から思っていたのだよ。なにか不都合はあるか?」
「いえ。私は陛下と大陸とを橋渡しするのが仕事で、陛下の意見に物申す権利はありませんから」
「よくわきまえているじゃないか。そのことと、食料の量を増やすこと、この二つを忘れずに伝えておいてくれ」
「承知いたしました」

 モノはシルヴァーに深々とお辞儀をし、僕に向かってほんの浅く頭を下げ、舟を海上まで押し戻して方向転換させた。舟に乗り込み、シルヴァーに対して再び頭を下げ、オールを漕ぎはじめる。

「さっさと帰るぞ。眠たくなったから昼寝がしたい。お前にしてもらいたい仕事もあるしな」
 最短でも舟が見えなくなるまでこの場所にいたかったのに、シルヴァーはさっさと踵を返した。
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