少女王とその奴隷

阿波野治

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モノを想う夜③

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「汚物に現を抜かすお前は、汚物以下だ。さすがの寛大なあたしも、汚物以下の生き物を飼っておくつもりはない。モノとの付き合いかたをよくよく考えろ。あたしから方法をいちいち教授したりはせん。お前の頭で考えるんだ、奴隷。今度あたしの気に障るような真似をしたら――」

 絶頂に達し、口にしかけていた言葉が止まる。繋がったままの女体が痙攣する。僕は荒い呼吸をくり返しながら、官能の微震を下半身で体感する。

 シルヴァーが口にしかけたが、できなかった言葉は?
「殺す」だ。能動的にモノとの仲を縮めようとしたそのときは、殺す、そう告げようとしたのだ。
 女王は二度、奴隷に対して「殺す」と警告した――。

 受けた衝撃は決して小さくなかった。
 シルヴァーはこれまで、過失を犯した僕に対する罰として、殺害をほのめかしたことは一度もなかった。それなのに、二度も「殺す」だなんて。

 シルヴァーの奴隷として生きることに、大きな意味で異論はない。
 ただ、モノとの仲を深めることが禁じられ、なおかつ隷従しなければならないとなると、脱力してしまう。
 報酬があるからこそ、つらい仕事にも従事できるのだ。モノとのささやかな交流は、報酬としては分不相応ではないはずだ。
 それにもかかわらず、それを禁じられるのであれば、僕は、僕は――。


* * *


 それからの日々は、モノのことは極力考えないようにして過ごした。
 試みは、一応上手くいっていると思う。

 十日後にモノと再会できるのだと思うと、なににでも耐えられた。
 理不尽に押しつけられた膨大で困難な仕事にも。
 それを満足にこなせなかったのを理由に下される、厳しすぎる過激な罰にも。
 気軽に投げつけられる暴言にも。
 気まぐれに行使される暴力にも。
 夜ごとの試練であるセックスにも。

 まことに、まことに、モノは光だった。
 逆に言えば、シルヴァーは闇。

 女王の行為が耐えがたいという思いは、日に日に増している。セックスを気持ちいいと感じているのは確かだが、心はもはや体ほどには興奮していない。嫌悪感と拒絶感は、夜を重ねるごとに膨らんでいる。
 モノの存在を知ったのを境に、僕の中でシルヴァーの価値は下落の一途を辿っている。奴隷の心の中を見抜くのに長けた女王に異変を悟られていないのだから、下降の曲線は急ではないのだろう。しかし、一方的で歯止めがきかない下降だ。

 出会ったばかりのころは、モノは風変りな人だと感じたが、シルヴァーと比べると随分とまともだ。

 記憶を人質にとられているせいで、まともではない少女の奴隷として、今後半永久的に生きていかなければならないことについては、極力考えないようにした。
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