少女王とその奴隷

阿波野治

文字の大きさ
47 / 85

モノ再訪①

しおりを挟む
 シルヴァーに心の中を悟られることなく、モノが島を訪れる日がやってきた。
 毎日のように激しかったセックスの疲れを引きずりながらも、雷を落とされないようにきびきびと朝食の準備をする。もうすぐモノに再会できるのだと思うと、隠すことに成功していた喜びがとうとう表に出てしまいそうで、ひやひやした。

 本日のシルヴァーは上機嫌らしく、僕に小屋の中で食事をとることを許可してくれた。なおかつ、よくしゃべった。
 思い返せば、前回モノが来た日も機嫌はよかった。島に閉じ込められている身としてはやはり、外部の人間との交流は刺激的で、楽しみなイベントなのだろう。

「クロ、そろそろ出かけようか」
 昼食を終えて小一時間が経ち、僕たちは小屋を出る。僕が食事の後片付けをしている間、床に寝そべっていたシロもいっしょだ。
 つまり、先週と同じく、僕とモノが荷物を運んでいる間、女王と愛犬は散歩に出かける可能性がある。

 植物の楽園を抜けた僕は、海の遠くへと視線を投げた。すると、水平線の彼方に点が見えた。遠すぎて動く方向も、動いているのか否かさえも見極められないが、既視感のある映像だ。
 心臓が打つリズムが少し速くなった。

「なんだ、もう来ているのか。この前、もう少し早く来いと文句を言っておいたからかな。モノにしては気がきくじゃないか」
 僕と同じ映像を認めたらしく、シルヴァーがひとり言のようにそう呟いた。

 ほどなくして舟が着岸し、モノが下船した。服装も、表情を消した顔も、舟を飛び降りる軽やかさも、前回と変わりない。絶対に有り得ないが、着水のさいの海水の跳ねかたすらも、先週と全く同じに見えた。

「モノ、さっさと検分を済ませよう。早くシロと散歩がしたいんだ」
「荷物を運ぶのを待つ間、そうされることに決めたんですね」
「そんなところだ。ほら、クロ。なにをぼーっとしとるんだ」
「すみません」

 舟に駆け寄る。よじ登ろうとするさいに振り向くと、すぐ後ろにいたモノと視線が交差した。返ってきたのは、ほんの浅く頷くという反応。
 僕の胸中に滞っていた諸々のネガティブな感情が瞬時に消え失せ、体温がほんの少し上昇した。とてもモノらしい反応で、だからこそ嬉しかったし、安心した。

 シルヴァーは、まだ荷物を下ろしている途中の段階でモノを呼び止め、革袋の中身を説明させた。よほどシロと早く遊びたいらしい。
 必然に僕一人が作業する形となったが、苦痛ではない。
 またモノと二人きりになれる時間が、すぐそこまで来ている。

 元気よく砂浜を駆ける愛犬を穏やかにたしなめながら、シルヴァーは僕たちから遠ざかっていく。
 僕とモノは視線を交わし、荷物を胸に抱えていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

漆黒の闇から

一宮 沙耶
ホラー
邪悪な霊が引き起こす事件の数々 若い頃から霊が見え、精神を病んでいた私が事件を解決していく ただ、自分も黄泉の世界に巻き込まれてしまう

処理中です...