少女王とその奴隷

阿波野治

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モノ再訪②

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「先週はこのあたりで、革袋を樹の枝に引っかけたんでしたね」
 因縁の植物に差しかかったところで、僕は呟いた。たった今思い出したような口ぶりを装ったが、実際はずっと前からこのタイミングで言おうと計画していた。
 モノは僕の顔と問題の植物を交互に見て、

「覚えてる。そこは少し狭くなっているから、気をつけたほうがいい」
「そうですね。ソーセージが入った革袋でした。破れた音を聞いた瞬間は、中身が漏れ出したらどうしようと焦ったけど、ソーセージで不幸中の幸いでしたね。結局、袋が破れていることは追及されなかったから、二度安心したことになります」
「それはなにより。陛下はささいなことに目くじらを立てる人ではないけど、いったん怒り出すと手がつけられないから」

 我慢ができない人だとか、シルヴァーに否定的なことを言おうかとも思ったが、自制した。他人の悪口を言うために時間を割くくらいなら、モノと楽しく話をしていたい。

「……あの」
 だから、再び僕のほうから話しかけた。

「どうしたの? なにか困りごと?」
「モノさん、と名前で呼んでもいいですか」
「いいよ。さんづけをしなくていいし」
「すみません。話し相手が陛下しかいないので、ついこういう言葉づかいになってしまうんです。陛下から聞いていますか? 僕がこの島に流れ着く前の記憶を失っていることを」
「聞いてるよ。陛下から聞かされて把握してる」
「僕は記憶喪失だから、外の世界のことを知りたい願望があるんです。モノさんは――モノは、当たり前だけど外の世界から来たんだよね。大陸、という言葉も耳にしたけど。もしよければ、荷物を運ぶ時間を利用して、教えてくれないかな」

 モノのことを知りたい。同時に、そちらの願望も負けないくらい強く僕は抱いている。

「陛下からは無駄口を叩くなと言われている。どこまで教えていいかの線引きも曖昧だし。……どうすればいいのかな」
 モノは僕の提案に気乗りがしていないらしい。
 半ば覚悟していた展開だ。同時に、受け入れがたい展開でもある。
 それでいて、食い下がるのではなく、黙り込むという対応を僕はとる。諦めが悪いところを見せることで、モノに嫌われたくなかったのだ。

 互いに一言もしゃべらないまま、ただ足を動かすだけの時間が流れていく。

「――ソーセージというのは、動物の腸に肉を詰めて作る加工食品。陛下の故郷ではよく作られていて、よく食べられている食品なのだけど」
 突然のモノの発言に、僕は思わず足を止めた。
 モノは先に進むように手振りで促す。言われたとおりにすると、続きが語られた。
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