48 / 85
モノ再訪②
しおりを挟む
「先週はこのあたりで、革袋を樹の枝に引っかけたんでしたね」
因縁の植物に差しかかったところで、僕は呟いた。たった今思い出したような口ぶりを装ったが、実際はずっと前からこのタイミングで言おうと計画していた。
モノは僕の顔と問題の植物を交互に見て、
「覚えてる。そこは少し狭くなっているから、気をつけたほうがいい」
「そうですね。ソーセージが入った革袋でした。破れた音を聞いた瞬間は、中身が漏れ出したらどうしようと焦ったけど、ソーセージで不幸中の幸いでしたね。結局、袋が破れていることは追及されなかったから、二度安心したことになります」
「それはなにより。陛下はささいなことに目くじらを立てる人ではないけど、いったん怒り出すと手がつけられないから」
我慢ができない人だとか、シルヴァーに否定的なことを言おうかとも思ったが、自制した。他人の悪口を言うために時間を割くくらいなら、モノと楽しく話をしていたい。
「……あの」
だから、再び僕のほうから話しかけた。
「どうしたの? なにか困りごと?」
「モノさん、と名前で呼んでもいいですか」
「いいよ。さんづけをしなくていいし」
「すみません。話し相手が陛下しかいないので、ついこういう言葉づかいになってしまうんです。陛下から聞いていますか? 僕がこの島に流れ着く前の記憶を失っていることを」
「聞いてるよ。陛下から聞かされて把握してる」
「僕は記憶喪失だから、外の世界のことを知りたい願望があるんです。モノさんは――モノは、当たり前だけど外の世界から来たんだよね。大陸、という言葉も耳にしたけど。もしよければ、荷物を運ぶ時間を利用して、教えてくれないかな」
モノのことを知りたい。同時に、そちらの願望も負けないくらい強く僕は抱いている。
「陛下からは無駄口を叩くなと言われている。どこまで教えていいかの線引きも曖昧だし。……どうすればいいのかな」
モノは僕の提案に気乗りがしていないらしい。
半ば覚悟していた展開だ。同時に、受け入れがたい展開でもある。
それでいて、食い下がるのではなく、黙り込むという対応を僕はとる。諦めが悪いところを見せることで、モノに嫌われたくなかったのだ。
互いに一言もしゃべらないまま、ただ足を動かすだけの時間が流れていく。
「――ソーセージというのは、動物の腸に肉を詰めて作る加工食品。陛下の故郷ではよく作られていて、よく食べられている食品なのだけど」
突然のモノの発言に、僕は思わず足を止めた。
モノは先に進むように手振りで促す。言われたとおりにすると、続きが語られた。
因縁の植物に差しかかったところで、僕は呟いた。たった今思い出したような口ぶりを装ったが、実際はずっと前からこのタイミングで言おうと計画していた。
モノは僕の顔と問題の植物を交互に見て、
「覚えてる。そこは少し狭くなっているから、気をつけたほうがいい」
「そうですね。ソーセージが入った革袋でした。破れた音を聞いた瞬間は、中身が漏れ出したらどうしようと焦ったけど、ソーセージで不幸中の幸いでしたね。結局、袋が破れていることは追及されなかったから、二度安心したことになります」
「それはなにより。陛下はささいなことに目くじらを立てる人ではないけど、いったん怒り出すと手がつけられないから」
我慢ができない人だとか、シルヴァーに否定的なことを言おうかとも思ったが、自制した。他人の悪口を言うために時間を割くくらいなら、モノと楽しく話をしていたい。
「……あの」
だから、再び僕のほうから話しかけた。
「どうしたの? なにか困りごと?」
「モノさん、と名前で呼んでもいいですか」
「いいよ。さんづけをしなくていいし」
「すみません。話し相手が陛下しかいないので、ついこういう言葉づかいになってしまうんです。陛下から聞いていますか? 僕がこの島に流れ着く前の記憶を失っていることを」
「聞いてるよ。陛下から聞かされて把握してる」
「僕は記憶喪失だから、外の世界のことを知りたい願望があるんです。モノさんは――モノは、当たり前だけど外の世界から来たんだよね。大陸、という言葉も耳にしたけど。もしよければ、荷物を運ぶ時間を利用して、教えてくれないかな」
モノのことを知りたい。同時に、そちらの願望も負けないくらい強く僕は抱いている。
「陛下からは無駄口を叩くなと言われている。どこまで教えていいかの線引きも曖昧だし。……どうすればいいのかな」
モノは僕の提案に気乗りがしていないらしい。
半ば覚悟していた展開だ。同時に、受け入れがたい展開でもある。
それでいて、食い下がるのではなく、黙り込むという対応を僕はとる。諦めが悪いところを見せることで、モノに嫌われたくなかったのだ。
互いに一言もしゃべらないまま、ただ足を動かすだけの時間が流れていく。
「――ソーセージというのは、動物の腸に肉を詰めて作る加工食品。陛下の故郷ではよく作られていて、よく食べられている食品なのだけど」
突然のモノの発言に、僕は思わず足を止めた。
モノは先に進むように手振りで促す。言われたとおりにすると、続きが語られた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる