少女王とその奴隷

阿波野治

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モノ再訪③

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「肉以外にも、野菜やチーズなどの食材を混ぜ込むことで、いろいろな味わいが再現できる。陛下はハーブをたっぷりと使ったソーセージが好きで、よくオーダーされるね。今日持ってきた革袋にも何本か入っているし、あの日あなたが破いた革袋の中にも入っていたと思う」
「……モノ、どうしてそんなことを? 無駄口をきいてはいけないと命じられているんじゃなかったの?」
「運んできた食品の説明だから、無駄ではないでしょう。クロは食事の支度を任されているんだよね?」
「うん、任されてる」
「じゃあ、無駄じゃないね。これからいろいろとしゃべるけど、不要なら聞き流して」

 モノは食材について語った。シルヴァーの使用人である僕に必要事項を伝える、という体裁をとってはいたが、食品の作りかたや名産地や味のバリエーションなど、直接関係のない情報まで語った。
 モノは、「外の世界のことを知りたい」という僕の欲求に、女王からの指示にあからさまに抵触しないやりかたで応えてくれたのだ。

 簡単には再生できないだけで、記憶は脳髄の奥底に秘められているのだろう。食料品に関するモノの説明は、どこかで聞いたことがあるような情報が多かった。思い出した瞬間の名状しがたい感動は、新しい知識を得た瞬間のそれを凌駕した。また、事実が一つ判明することで、連鎖的に他の二・三の事実も思い出していく爽快感に、心が静かに昂った。なによりも、モノが僕のために時間を割いてくれること、それが涙ぐみそうになるくらいに嬉しい。

「へえ。パンというのは、想像以上にたくさんの種類があるんだね」
「そうだね。全ての種類を羅列して、どんな味でどんな作りかたなのかを説明していったら、何日あっても足りないと思う」
「ちなみに、モノはどんなパンが好き?」
「好きというか、よく食べているのは白パン。黒パンよりも柔らかくて、美味しくて、どんな料理にでも合うから」
「だから陛下は白パンで、僕は黒パンなんだね。でも、僕がこの島に来る前に島にあった食料の中に、黒パンがあったよ。陛下は白パンだけじゃなくて、黒パンも食べるんだね」
「味が落ちるのは確かだけど、大きく劣るわけじゃないからね。白パンばかりでは飽きがくるということで、陛下はリクエストされているんじゃないかな」

 そうやってこちらから意見を求めることで、モノに関する情報を得られた。
 とはいえ、彼女としてはやはり、仕事とは無関係のことは極力しゃべりたくないらしい。決して多くの情報は引き出せないし、質問によっては回答を拒まれることもあった。
 それでも、モノと言葉をやりとりできる喜びは揺るがなかった。
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