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昼下がり②
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会話がないまま「外れの浜」に到着した。
久しぶりに見た「外れの浜」の情景は、前回から全く変化がないように見える。美しいが平凡な、こぢんまりとした砂浜だ。懐かしさは込み上げてこない。思い出を反芻したい気持ちよりも、シルヴァーがこの場所に来た理由を知りたい気持ちが勝っている。
「おい、敷くものを用意してくれ。舟が運んできた食料ですら絨毯が宛がわれるのに、あたしのための敷物がなくてどうする」
「えっと、植物の葉で構いませんか」
「ああ。一秒でも早くしろ」
要求を叶えるべく動き出した直後、唐突に思う。
モノが上陸するのは「三日月浜」だが、「外れの浜」も同じく砂浜だ。シルヴァーが僕をこの場所まで連れてきたのは、モノに関する話をするためなのでは?
砂浜の近くに生えている植物から大きな葉をちぎる。その葉の汚れを別の葉を使って拭い、何枚も重ねて砂の上に敷き、即席の敷物にする。
シルヴァーはすぐさまその上に腰を下ろした。座り心地に満足したらしく、小さく頷いて仰向けに横たわったので、僕は胸を撫で下ろした。シロもあいているスペースに寝そべった。
「お前も座れ。しばらくぼーっとしようではないか、ぼーっと」
僕が用意した敷物は一人と一匹で満員だ。汚れを拭うのに使った葉を、拭った面を下にして敷き、その上に座る。
シルヴァーは目を瞑って強い日射しを浴びている。ほどほどにリラックスした表情をしている。内心は読み取れない。
「あの……。座って、なにをするんですか」
「聞こえなかったか? ぼーっとするんだ、ぼーっと。余計なことを言わせるな、馬鹿が」
なぜぼーっとするのかを知りたかったのだが、これ以上の追及は機嫌を損ねるだけだろう。さっきの質問だって、シルヴァーの機嫌が悪ければ確実に怒鳴られていた。僕は口を噤むしかなかった。
日射しに照りつけられた皮膚が絶え間なく汗を分泌し、重力に従って肌を伝い落ちていく。最初こそ、いちいち手の甲や指先で拭っていたが、きりがないのですぐにやめた。
炎天下で、理由を知らされずに無為に過ごさなければならないのは、かなり苦痛だ。問い質したい気持ちはあるが、しつこく尋ねるのはやはり勇気がいる。
「お前とはこの浜で出会ったんだったな。今日のように強い日射しが降り注ぐ、この『外れの浜』で」
波音を除けば音一つなかった空間に、シルヴァーの呟きがこぼれた。独り言のようにも聞こえる口調だ。彼女は相変わらず瞼を下ろしたまま、薄桃色の唇だけを動かす。
「記憶喪失になったお前にとって、初めて見た人間はあたしだったわけだろう。いわば運命的な出会いだったわけだ。モノとの出会いも衝撃的だっただろうが、あたしを見た瞬間のお前の驚きは凄まじいものがあっただろう。驚き、衝撃――まあ、表現はなんでもいい」
久しぶりに見た「外れの浜」の情景は、前回から全く変化がないように見える。美しいが平凡な、こぢんまりとした砂浜だ。懐かしさは込み上げてこない。思い出を反芻したい気持ちよりも、シルヴァーがこの場所に来た理由を知りたい気持ちが勝っている。
「おい、敷くものを用意してくれ。舟が運んできた食料ですら絨毯が宛がわれるのに、あたしのための敷物がなくてどうする」
「えっと、植物の葉で構いませんか」
「ああ。一秒でも早くしろ」
要求を叶えるべく動き出した直後、唐突に思う。
モノが上陸するのは「三日月浜」だが、「外れの浜」も同じく砂浜だ。シルヴァーが僕をこの場所まで連れてきたのは、モノに関する話をするためなのでは?
砂浜の近くに生えている植物から大きな葉をちぎる。その葉の汚れを別の葉を使って拭い、何枚も重ねて砂の上に敷き、即席の敷物にする。
シルヴァーはすぐさまその上に腰を下ろした。座り心地に満足したらしく、小さく頷いて仰向けに横たわったので、僕は胸を撫で下ろした。シロもあいているスペースに寝そべった。
「お前も座れ。しばらくぼーっとしようではないか、ぼーっと」
僕が用意した敷物は一人と一匹で満員だ。汚れを拭うのに使った葉を、拭った面を下にして敷き、その上に座る。
シルヴァーは目を瞑って強い日射しを浴びている。ほどほどにリラックスした表情をしている。内心は読み取れない。
「あの……。座って、なにをするんですか」
「聞こえなかったか? ぼーっとするんだ、ぼーっと。余計なことを言わせるな、馬鹿が」
なぜぼーっとするのかを知りたかったのだが、これ以上の追及は機嫌を損ねるだけだろう。さっきの質問だって、シルヴァーの機嫌が悪ければ確実に怒鳴られていた。僕は口を噤むしかなかった。
日射しに照りつけられた皮膚が絶え間なく汗を分泌し、重力に従って肌を伝い落ちていく。最初こそ、いちいち手の甲や指先で拭っていたが、きりがないのですぐにやめた。
炎天下で、理由を知らされずに無為に過ごさなければならないのは、かなり苦痛だ。問い質したい気持ちはあるが、しつこく尋ねるのはやはり勇気がいる。
「お前とはこの浜で出会ったんだったな。今日のように強い日射しが降り注ぐ、この『外れの浜』で」
波音を除けば音一つなかった空間に、シルヴァーの呟きがこぼれた。独り言のようにも聞こえる口調だ。彼女は相変わらず瞼を下ろしたまま、薄桃色の唇だけを動かす。
「記憶喪失になったお前にとって、初めて見た人間はあたしだったわけだろう。いわば運命的な出会いだったわけだ。モノとの出会いも衝撃的だっただろうが、あたしを見た瞬間のお前の驚きは凄まじいものがあっただろう。驚き、衝撃――まあ、表現はなんでもいい」
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