53 / 85
昼下がり②
しおりを挟む
会話がないまま「外れの浜」に到着した。
久しぶりに見た「外れの浜」の情景は、前回から全く変化がないように見える。美しいが平凡な、こぢんまりとした砂浜だ。懐かしさは込み上げてこない。思い出を反芻したい気持ちよりも、シルヴァーがこの場所に来た理由を知りたい気持ちが勝っている。
「おい、敷くものを用意してくれ。舟が運んできた食料ですら絨毯が宛がわれるのに、あたしのための敷物がなくてどうする」
「えっと、植物の葉で構いませんか」
「ああ。一秒でも早くしろ」
要求を叶えるべく動き出した直後、唐突に思う。
モノが上陸するのは「三日月浜」だが、「外れの浜」も同じく砂浜だ。シルヴァーが僕をこの場所まで連れてきたのは、モノに関する話をするためなのでは?
砂浜の近くに生えている植物から大きな葉をちぎる。その葉の汚れを別の葉を使って拭い、何枚も重ねて砂の上に敷き、即席の敷物にする。
シルヴァーはすぐさまその上に腰を下ろした。座り心地に満足したらしく、小さく頷いて仰向けに横たわったので、僕は胸を撫で下ろした。シロもあいているスペースに寝そべった。
「お前も座れ。しばらくぼーっとしようではないか、ぼーっと」
僕が用意した敷物は一人と一匹で満員だ。汚れを拭うのに使った葉を、拭った面を下にして敷き、その上に座る。
シルヴァーは目を瞑って強い日射しを浴びている。ほどほどにリラックスした表情をしている。内心は読み取れない。
「あの……。座って、なにをするんですか」
「聞こえなかったか? ぼーっとするんだ、ぼーっと。余計なことを言わせるな、馬鹿が」
なぜぼーっとするのかを知りたかったのだが、これ以上の追及は機嫌を損ねるだけだろう。さっきの質問だって、シルヴァーの機嫌が悪ければ確実に怒鳴られていた。僕は口を噤むしかなかった。
日射しに照りつけられた皮膚が絶え間なく汗を分泌し、重力に従って肌を伝い落ちていく。最初こそ、いちいち手の甲や指先で拭っていたが、きりがないのですぐにやめた。
炎天下で、理由を知らされずに無為に過ごさなければならないのは、かなり苦痛だ。問い質したい気持ちはあるが、しつこく尋ねるのはやはり勇気がいる。
「お前とはこの浜で出会ったんだったな。今日のように強い日射しが降り注ぐ、この『外れの浜』で」
波音を除けば音一つなかった空間に、シルヴァーの呟きがこぼれた。独り言のようにも聞こえる口調だ。彼女は相変わらず瞼を下ろしたまま、薄桃色の唇だけを動かす。
「記憶喪失になったお前にとって、初めて見た人間はあたしだったわけだろう。いわば運命的な出会いだったわけだ。モノとの出会いも衝撃的だっただろうが、あたしを見た瞬間のお前の驚きは凄まじいものがあっただろう。驚き、衝撃――まあ、表現はなんでもいい」
久しぶりに見た「外れの浜」の情景は、前回から全く変化がないように見える。美しいが平凡な、こぢんまりとした砂浜だ。懐かしさは込み上げてこない。思い出を反芻したい気持ちよりも、シルヴァーがこの場所に来た理由を知りたい気持ちが勝っている。
「おい、敷くものを用意してくれ。舟が運んできた食料ですら絨毯が宛がわれるのに、あたしのための敷物がなくてどうする」
「えっと、植物の葉で構いませんか」
「ああ。一秒でも早くしろ」
要求を叶えるべく動き出した直後、唐突に思う。
モノが上陸するのは「三日月浜」だが、「外れの浜」も同じく砂浜だ。シルヴァーが僕をこの場所まで連れてきたのは、モノに関する話をするためなのでは?
砂浜の近くに生えている植物から大きな葉をちぎる。その葉の汚れを別の葉を使って拭い、何枚も重ねて砂の上に敷き、即席の敷物にする。
シルヴァーはすぐさまその上に腰を下ろした。座り心地に満足したらしく、小さく頷いて仰向けに横たわったので、僕は胸を撫で下ろした。シロもあいているスペースに寝そべった。
「お前も座れ。しばらくぼーっとしようではないか、ぼーっと」
僕が用意した敷物は一人と一匹で満員だ。汚れを拭うのに使った葉を、拭った面を下にして敷き、その上に座る。
シルヴァーは目を瞑って強い日射しを浴びている。ほどほどにリラックスした表情をしている。内心は読み取れない。
「あの……。座って、なにをするんですか」
「聞こえなかったか? ぼーっとするんだ、ぼーっと。余計なことを言わせるな、馬鹿が」
なぜぼーっとするのかを知りたかったのだが、これ以上の追及は機嫌を損ねるだけだろう。さっきの質問だって、シルヴァーの機嫌が悪ければ確実に怒鳴られていた。僕は口を噤むしかなかった。
日射しに照りつけられた皮膚が絶え間なく汗を分泌し、重力に従って肌を伝い落ちていく。最初こそ、いちいち手の甲や指先で拭っていたが、きりがないのですぐにやめた。
炎天下で、理由を知らされずに無為に過ごさなければならないのは、かなり苦痛だ。問い質したい気持ちはあるが、しつこく尋ねるのはやはり勇気がいる。
「お前とはこの浜で出会ったんだったな。今日のように強い日射しが降り注ぐ、この『外れの浜』で」
波音を除けば音一つなかった空間に、シルヴァーの呟きがこぼれた。独り言のようにも聞こえる口調だ。彼女は相変わらず瞼を下ろしたまま、薄桃色の唇だけを動かす。
「記憶喪失になったお前にとって、初めて見た人間はあたしだったわけだろう。いわば運命的な出会いだったわけだ。モノとの出会いも衝撃的だっただろうが、あたしを見た瞬間のお前の驚きは凄まじいものがあっただろう。驚き、衝撃――まあ、表現はなんでもいい」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる