少女王とその奴隷

阿波野治

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昼下がり①

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「おいクロ、行こう。出かけるぞ」
 シルヴァーから声がかかったのは、うだるように暑い昼下がりのこと。汗が止まらないほど暑いのは毎日のことだが、今日は特に厳しく、朝から心も体もどこか重たかった。

『そろそろまた狩りにでも行くか。そのつもりで準備をしておけ』
 昼食の最中にそう命じられたので、食事が終わり次第外に出て、狩りの道具を新たに作っていた。そのさなかに、小屋のドアが開いて声がかかったのだ。
 さほど興味があるようでもないのに、日陰に寝そべって僕の作業を眺めていたシロが、機敏に体を起こしてしっぽを振りはじめた。

「出かけるって、狩りにですか」
「いや、予定は変更だ。お前が拵えたちんけな道具は持参しなくてもいいぞ。ついてこい」
 承知しました、と答えて命令に従う。
 なにも一日で一番暑い時間帯に出かけなくても、と思ったが、口にはしない。モノと出会って以来、心の中で女王に反発する機会は増加傾向にあったが、今までどおり従順に振る舞っているつもりだし、振る舞えているはずだ。

 一行は「外れの浜」に向かう道を進む。僕たちが出会った日以来、一度も訪れたことがない場所に通じる道を。
 出会って二日目の午後に、首にリードを括りつけられて、四つん這いで歩かされながら「ふたご湖」へ出かけたことが思い出される。あのような特殊な形態で移動したのは、現時点ではあれが最初で最後だ。

 人をいじめるのが好きな彼女にとって、人間を犬のように振る舞わせ、鞭打つのはさぞ愉快だっただろう。ただ、犬役の移動速度がどうしても遅くなる分、飼い主にもストレスがかかるという難点がある。二度目が実施されない理由は、多分それなのだろう。信念や主義のようなものがあるわけではなく、気まぐれが原動力だから、始めるのもやめるのも呆気ないというわけだ。
 道具を作るように命じておきながら、狩りではない目的で外出したのも、気まぐれの一言で説明可能なのだろう。
 ただ、上手く言語化できないのだが――なにか違和感がある。

 しばらく歩いているうちに、道中、シルヴァーが一言もしゃべっていないことに気がつく。
 戸惑いが胸中を満たした。なにか一つ歯車が狂ったとたんに恐怖に変わりそうな、どうにも気持ちが落ち着かない戸惑いだ。
「どうかされましたか」と一声かけるべきなのだろうか?
 しかし、黙っていたい気分だからしゃべらずにいるのだとすれば、機嫌を損ねてしまうことになる。

 正しい対応だという確信は抱けなかったが、僕は沈黙を選んだ。
 シルヴァーは、僕やシロに話しかけようとする素振りすら見せない。
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