少女王とその奴隷

阿波野治

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モノ再訪⑤

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 その日、僕とモノの関係について、シルヴァーは一切言及しなかった。
 女王の目を盗んで親密な会話をしたことは、ばれていない?
 多分そうなのだろうが、一抹の不安が残った。最大火力で解き放つそのときのために、諸々の感情や想いをあえて抑え込んでいるような、そんな気がしなくもないのだ。

 シルヴァーとセックスをすると、深い快感を覚える。
 しかし、今となっては、苦痛を感じる時間帯のほうが圧倒的に長い。

 働きぶりを評価する言葉をかけられると、素直に嬉しくなる。
 しかし、ストレートな言葉で褒めてくれないし、叱りつけるときは不当なまでに、不要なまでに厳しく叱る。

 裸で見知らぬ島に流れ着き、記憶を取り上げられた僕にとって、彼女は頼らざるを得ない存在であり、光だった。
 この島に降り注ぐ日射しのように、身を焼くような光ではあったが、生きる上で必要不可欠だし、心から美しいと思った瞬間もあった。
 しかし、モノという存在を知ってしまったのを境に、シルヴァーの異常性を急速に受け入れがたく感じはじめている。

 暴言と暴力が絶えない昼の生活。
 果てのないセックスを前提とした夜の生活。
 そして、女王とその奴隷という関係。
 シルヴァーにまつわるなにもかもが異常だ。正常と呼べるものはなに一つないといっても過言ではない。

 確かに、シルヴァーは島を熟知している。モノがほのめかしたように、高貴な身分に属する人間なのかもしれない。なにより、僕は彼女に記憶を奪われている。彼女が主導的な立場に立つことも、僕が彼女に隷属的な立場に就くことも――語弊がある表現かもしれないが――大きな意味では異論はない。
 でも、だからといって、なにも家畜以下の扱いをする必要はないではないか。もっと穏やかで、平和で、人間的な関係を築くことだってできるはずだ。

 そもそもの話、人間が生きていくうえで必要不可欠な記憶を奪うという行為自体、許しがたい暴挙だ。
 人間性を無視した最低最悪の愚行だ。
 正義というものが存在するならば、発覚した瞬間に裁かれて当然の蛮行だ。
 たとえ女王だとしても、そんなことをする権利はないだろうに。

 シルヴァーはあらゆる意味で異常だ。どの角度から、いくら好意的に見ても、生活をともにして楽しい人ではない。

 では、モノはどうだろう?
 シルヴァーではなくモノと島で暮らしていたら、どんな生活が僕を待っていただろう?

 今が真夜中でよかった。心からそう思う。
 きっと今の僕の顔には、シルヴァーに対する嫌悪と憎悪が色濃く滲み出ているはずだから。
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