少女王とその奴隷

阿波野治

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歓喜と悲劇②

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「三日月浜」に到着したが、舟はまだ到着していなかった。
 十分ばかり待つと、彼方に舟の影が見えた。

「クロ。陛下はどうされたの?」
 定位置に絨毯を敷きながらモノが問う。表情にも声音にも感情は表れていない。感情を内に秘めておくのが得意だからというよりも、驚くべき事態ではないから驚いていないように見える。
 モノとともに荷下ろしを行いながら、事情を説明する。天候が悪くなるとよく体調不良に見舞われていると話していたことも、併せて伝える。

「頭痛を理由にベッドに横になっていたことは、これまでも何回かあるよ。天候との関係も、そういえば言っていた記憶があるね」
 荷物を絨毯の上に置き、モノは天を仰いだ。釣られて見上げた空は、今にも雨を降らせそうな黒雲が幅をきかせている。

「薬も渡してあるし、少し休めば問題ないんじゃないかな。途中までだけど食事もとって、クロと会話をしていたのなら、重症ではないと思う」
「それを聞いて安心した。……それにしても、検分、僕にもできるかな」
「大丈夫、私の説明を聞くだけだから。陛下に報告する手間がかかるけどね」

 荷下ろしはつつがなく完了し、検分作業に入る。これはシルヴァーにリクエストされて持ってきた、前回よりもこの食品の量を減らした、といった細かい説明が続く。

「私からは以上。雨が降りそうだし、早めに運ぼうか」
「そうだね」
 無理なく抱えられるだけ胸に抱え、仕事の後半戦が始まる。
「ずっとモノに会いたかった」
 最初の言葉をあらかじめ決めていたわけではない。ただ、モノは自分から無駄話の糸口を提供しないだろうから、こちらから口火を切ろうとは思っていた。ジャングルに足を踏み入れて早々、僕はそれを実践した。

「陛下は厳しくて、ずっとつらい思いをしているから、対等に接してくれるモノと話ができる日が楽しみで。それを支えに、この十日間を懸命に生きてきた。今こうして会話ができて、凄く興奮してるよ」
「無駄口をきいてはいけないと、陛下から直々に命じられているのだけど」
「でも今は眠っているから、僕たちの話なんて聞いていない。僕はモノと話がしたいな。モノはどうなの」
「私もその気持ちはあるよ。私の仕事はただひたすら孤独だから」

 思いがけず飛び出した孤独という言葉に、軽く息を呑む。
 モノが、孤独。

「特に、舟に乗っているときはいつだってそう。島に来るときも、島から帰るときもね。大陸から島にかけての海域は比較的穏やかだけど、荒れるときは荒れるし。今日だって、一番酷いときほどではないにせよ波は高かった。島へ行く日は決まっているから、海がどんな表情をしていても漕ぎ出さないといけない。そして、海に出たが最後、引き返すことは許されない」

 僕は現在、海に囲まれた場所で暮らしているが、海上には一度も身を置いたことがない。身を置きたいと思ったことすらなかった気がする。
 僕にとっての未知の環境に身を置いているとき、モノは孤独だという。
 僕はてっきり、舟は移動する小屋のようなもの、安らげる場所だと思い込んでいたのだが――。
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