少女王とその奴隷

阿波野治

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歓喜と悲劇③

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「体調がよくないときもあるし、気分が落ち込んでいるときだってある。そんなときでも、私は舟を漕がなければならない。大変だけど、女王陛下と関わり合える仕事だから、やりがいも感じている。私の少女時代はそう恵まれたものではなかったから、たくさんの給料がもらえる仕事に就いている今は、幸せ。嘘でも誇張でも強がりでもなくて、心からそう思ってるよ」
「強い人なんだね、モノは。僕も陛下の下に就くという意味では同じだけど、モノと違って、今の生活を日に日に耐えがたく感じるようになっている。なにをやってもねぎらいの言葉すら満足にかけてもらえなくて、少しの失敗で厳しい罰を受ける。モノと比べると、なんて情けない人生なんだろうって思うよ」
「週に一度物資を持ってくるだけの私と、生活をともにしているクロとでは立場が全く違うでしょう。あの人は気まぐれで、しかもわがままだから、私だったらとても耐えられない」
「……いいの? 陛下の悪口を言って」
「寝ているから平気と言ったのはクロでしょう」

 僕たちは足を止め、顔を見合わせる。
 モノの表情は、微笑みと形容するには一歩足りなかったが、それでも緩めてくれた。他ならぬ、僕が投げかけた言葉に反応して。

 僕は島暮らしで感じている苦労や苦痛、シルヴァーに対する不満や不安や恐怖などについて、モノに語った。緩やかに、しかしとめどなく、言葉が流れ出した。
 意識的に唇を閉ざせば黙れるのは分かっていたが、やめようとは思わない。モノが彼女らしくもなく、温かな相槌を打ってくれるのが嬉しくて、心地よくて、それが僕をしゃべり続けさせた。

 絶えず言葉を交わしながらも、僕たちは仕事を決して疎かにはしなかった。最初の荷物運びで僕が犯した、革袋を枝に引っかける失敗も犯さなかったし、運搬の速度が落ちることもない。
 小屋に入ったさいには、絶対にしゃべらないようにした。シルヴァーがブランケットに顔を埋めてベッドに横になり、寝息を立てているのは確認済みだ。それでも念には念を入れて、堅く口を閉ざして作業に励んだ。
 口をきくのは、ジャングルの中を歩いているとき、ならびに「三日月浜」にいるとき限定。なおかつ大声でしゃべらないように心がけた。

 僕たちは慎重で、完璧だった。それでいて、その完璧さに有頂天になって、調子にのって、暗黙のルールを逸脱する愚行を犯すこともない。そういう意味でも完璧だった。

 ただ、話題に関しては少し羽目を外してしまったかもしれない。
 毎夜の習慣である、シルヴァーとのセックスについて語ったのだ。
 僕の会話の主眼は、シルヴァーと共同生活を送る中で受ける、諸々の心身の苦痛。セックスはその一つとして話したのだが、つい詳細を語りすぎてしまった。

 モノは性の話題にもちゃんと耳を傾けてくれた。嫌々聞くどころか、関心はむしろ他の話題よりも高かった感さえある。
 仕掛けたのは僕のくせに、気まずくなった。
 言うべきことが一段落すると、しばし会話のない時間が流れた。
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