少女王とその奴隷

阿波野治

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歓喜と悲劇⑩

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「あそこに横たわっている死体が誰だか、分かるな? わざわざ仰向けにしてやったんだから、間違えるはずがない。モノがなぜああなったのかも、犯人が誰かも、もちろん理解しているな。さすがのお前でも、つい一時間ほど前にあたしがモノに告げた言葉は忘れていないだろう」

 シルヴァーが僕のほうを向いた。その表情は、案に相違して柔らかい。あくまでも彼女にしては、の注釈つきになるが。

「安心しろ。お前は簡単には殺さない。お前にはあたしの代わりとなって、泥と汗にまみれてもらわなければならないからな。あたしが言いたいのは、今後は自分の立場をわきまえて行動しろ、再び今回のようなことがあった場合はモノと同じ目に遭ってもらう――この二つだけだ。お前はモノのように死ななくていい。罪をあがなうために、今まで以上に精を出して働け。分かったか?」
「……承知しました、陛下」

 声は酷く掠れたものになった。口頭で返事ができたのが不思議なくらいだ。
 シルヴァーはそんな些事など気にも留めていないというふうに頷き、道を引き返しはじめた。僕にはもはや、女王の後ろに従うという選択肢しか許されていない。
 激しい雨は終息へと向かいはじめていた。


* * *


 島に来て以来、時折感じていた原因不明の悪臭。
 その正体は、穴に遺棄されたゴミと死体だった。

 もともとはゴミ捨て場として利用されていたのだろう。そこにいつしか、不要になった人間も捨てるようになった。それとも、最初から人間も捨てる目的で作られた?
 シルヴァーはなに一つ教えてくれなかった。
 僕に尋ねる勇気はないから、永遠に謎のままだろう。

 捨てられた人間は、モノのように女王に逆らった人間、あるいはなんらかの理由から利用価値が全くなくなった人間、などであると推察される。
 奴隷の身でありながら女王以外の女性と交わった僕ですら、労働という利用価値があるから生かされた。
 そう、全てはシルヴァーにとって役に立つか否か、なのだ。

 疑問なのは、おびただしい数の死体はどこから来た誰なのか、ということだ。
 全員モノと同じ、舟で物資を運んでくる役人? 死体の中には服が絡みついているものもあったが、いずれもモノが着ていた制服とはデザインも色も違っていた。それとも、島にはもともと多数の住人が存在していたが、シルヴァーが自ら手をかけたせいで全滅してしまった?
 考えても謎は深まる一方、何十時間も暇を潰せそうな深遠さだが、今はそんなことに向き合っている状況ではない。

 シルヴァーは場合によっては、僕を殺す。単なる脅し文句ではなく、殺そうと思ったら殺そうとするだろうし、殺せる。
 モノ殺害の件で、シルヴァーはそれを証明してみせた。実例をもって警告してみせた。

 僕は、死にたくない。
 シルヴァーに、殺されたくない。
 これからの日々こそが、真の地獄だ。


* * *


 その夜、女王は初めて、僕の肉体を求めなかった。
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