少女王とその奴隷

阿波野治

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変化と決意②

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 モノが殺された十日後、一艘の舟が「三日月浜」に姿を見せた。

『一定の期間内に役人が戻ってこないと、代わりの役人が派遣されることになっているから、その者にありのままを伝える。物資も持ってくるだろうから、運ぶ人間が必要だ。お前も来い』

 小屋を出るさいにシルヴァーは僕にそう告げたが、その言葉どおり、役人をのせた舟がこの島までやってきたのだ。
 舟みはモノが毎回運んできたのと同じくらいの物資が積まれ、漕手の女性はモノが着用していたのと同じ制服を着ている。感情が顔に表れていないことまで同じだ。

「モノはあたしが処分しておいたよ。あたしの意思に反することをしたからな」
 シルヴァーは淡々とそう述べた。声に冷たさは感じないのに、悪寒が背筋を駆け上り、全身に鳥肌が立った。

 聞き役は女王の言葉を極めて冷静に受け止めていた。動揺の気配は微塵も見受けられなかった。
 シルヴァーはやはり、これまでにも何人もの人間を殺めた実績があるのだ。そして、役人の側もその事実を把握している。
 目の届く範囲に女王がいなかったなら、僕は寒風に吹きつけられたように身震いをしていたに違いない。

「今後は二人以上で来るようにしてくれ。どちらかが奴隷をたぶらかして、妙な真似をするのは許しがたいから、パートナーの言行を互いに監視し合ってもらおう。物資の量と運んでくる頻度は現状維持で構わない」
「承知いたしました、陛下。次からはそうします」
「あたしからの伝達事項は以上だ。さあ、さっさと荷物を出してくれ。――おいクロ、なにをぼーっとしておる。手伝わんか」

 僕は「はい」と返事をして舟へ向かった。

 今日来た女性役人は、モノと比べて感情の表出抑制が徹底されている印象を受ける。僕と視線が重なっても、その瞳に人間的な色は一瞬たりとも過ぎらない。
 そんな人間といっしょに作業をしても、楽しくないしやりがいも湧かない。検分が終わり、小屋に荷物を運んでいる間も、彼女は一言もしゃべらなかった。

 モノが殺された事実を思えば、後任の女性と積極的に仲よくなろうという気分にはなれない。
 島から脱出するという目的を果たすにあたって、役人を味方につけられないのは大きなマイナスだ。頭ではそう理解しているのだが、どうしても無理だった。

 他になにか冴えたやりかたはないだろうか?
 作業のかたわら、懸命に思案を巡らせたが、これという案はなにも浮かばない。

 なにも行動を起こせないまま全ての荷物を運び終わり、役人は舟にのって島をあとにした。
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