少女王とその奴隷

阿波野治

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変化と決意④

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 シルヴァーはモノを殺し、僕を殺すと警告したが、僕に対する態度が硬化したわけではない。
 僕がおどおどとした態度を見せることが増えたのに伴い、それを注意する言葉が多くなったが、それはただ単に僕の態度に問題があるから注意しているだけ。彼女が日常的にしていることであって、モノを殺した件とは無関係だ。
 実際、「今後おどおどとした態度に改善が見られないようなら、モノのように殺す」といった、モノ殺害の件を僕に強く意識させるような発言をしたことは一度もない。

 ただ、変化自体はあった。
 あからさまな形で現れなかったために、僕がすぐには気がつかなかっただけで。
 セックスが淡泊になったのだ。

 モノを殺した日の夜は、僕がこの島に流れ着いて初めて、一度もセックスをしなかった。しかし、翌日には襲われた。そのさいのセックスは、一日休む前と比肩する激しさと果てしなさだった。
 その印象に騙されていたが、以後の交わりは、これまでと比べると、質的にも時間的にも大人しかった。全身全霊で貪り尽くしてくるような激しさが和らいでいたし、所要時間も半分以下になった。

 何十日間も毎夜のように、何時間も、同じ相手とセックスをしたから、いくら性欲の塊のシルヴァーといえども、飽きたのだ。疲れたのだ。
 最初はそう考えたが、その解釈はなにか単純すぎる気がする。

 僕と交わる時間を減らした代わりに、シルヴァーはシロと触れ合う時間を増やした。
 年端もいかない子どものように無邪気に戯れることが多かったが、際どい遊びも好んだ。戯れの延長というよりも、愛撫するのが目的で舌や唇を使っていた。シロの性器を手で刺激する場面も何度か見られた。

 大好きなシルヴァーと密に交流する機会が増えて、濃密な時間を過ごせるようになって、シロもやはり嬉しいのだろう。これまでは、食後は小屋から出て日陰で涼むことが多かったが、屋内に留まり、飼い主のそばで過ごす時間が増えた。
 感情表現のほとんどがしっぽと眼差し、元気で活動的な性格の割には鳴かない犬なのだが、遊んでくれて嬉しいとか、もっと遊んでほしいといったメッセージを伝えるさいに、吠えることでシルヴァーの注目を自らに向けさせようとする光景が多々見られた。

 もしかすると彼らは、以前はこんなふうに濃密な時間を過ごしていたのかもしれない。
 女王が、僕という余所者のために時間を割かなければならなくなり、本来の親密さから少し遠ざかっていただけで。

 今になって密な触れ合いを復活させたのは、僕とセックスをしなくなったことで生じた空き時間を埋めるため?
 それとも、仲がよいところを見せて嫉妬させようとしている?
 後者なのだとすれば、その小細工は全くの無意味だ。僕はすでにシルヴァーを見限っている。嫉妬の念を抱くなど、有り得ない。

 ただ、彼らの仲が急接近することで生じる疎外感、これには看過できないものを覚える。
 なぜって、シルヴァーが僕を不要だと思えば思うほど、僕の死は近くなるのだから。
 僕は労働という重要な役割を任せられているとはいえ、必ずしも必要不可欠な存在とは言えない。
 事実、僕が島に流れ着くまでは、彼女は愛犬だけをパートナーに生きてきた。
 女王にとって僕は、絶対に殺してはならない命ではない。
 明日にも「用済みだ」と宣告されるかもしれないのだ。

 僕は、どうすれば生きていけるのだろう……。
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