少女王とその奴隷

阿波野治

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もう一つの顔①

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「おい、今日はさっさと寝るぞ。蝋燭を吹き消したあとでも前でも、文句を言ったらただじゃおかないからな」

 夕食後まだ間もない、空が完全に暗くなったばかりの時間帯に、シルヴァーが吐き捨てるように僕に告げた。ベッドの縁に腰かけ、植物の穂でシロをじゃらしながらの発言だ。
 最初、シルヴァーは体調が芳しくないのではないかと疑った。それを理由に就寝時間を早めたことが、これまでに三回ほどあった。
 ただ、今日の彼女は、朝からずっと体調に問題はなそうだった。

 夜になって急に体調を損ねたのだろうか?
 さり気なく表情を観察したが、不調の色は読み取れない。
 理由がなににせよ、女王の意に反対する権利は僕にはない。押せば動き出す機械のように「承知しました」と答え、自分の仕事に戻った。

 宣言どおり、いつもよりも随分と早く蝋燭の炎が消された。
 シロはまだまだ遊びたそうだったが、飼い主になだめられて定位置のベッド脇で丸くなった。
 僕、シルヴァーの順番でそれぞれの寝床に身を横たえる。女王のベッドから衣擦れの音が小さく聞こえていたが、すぐ部屋は無音に満ちた。

 僕は、頭も目も冴えている。
 体調が悪いわけではなさそうなのに、就寝時間を早めた理由はなんなのだろう? 考えてみたが、しっくりくる答えは見つからない。
 女王らしい気まぐれを発揮しただけで、これという理由はない。それが正解にも思えるが、間違っている気もする。確かにシルヴァーは気まぐれな性格だが、邪悪な企みを胸に秘めて行動する人間でもある。腹に一物あるのではないか、という疑惑を払拭するのは難しい。

 時間の経過とともに、救いのように、呪いのように、睡魔が徐々に意識を侵食しはじめた。
 それに足並みを揃えて、警戒心も緩んでいく。

 そして、出し抜けのシーツが擦れる音。
 それに続いて、こちらへと近づいてくる足音。

 定石で考えるならば、セックスをしに来たのだろう。
 しかし今宵の僕は――なぜだろう、僕を殺しに来たのだとしか思えない。
 それでは、動機は?
 おそらくは気まぐれだ。殺す機会を虎視眈々と窺うのが彼女の計算高い面で、衝動的に行動に移すのが気まぐれな面。きっと、そういうことなのだ。

 僕の傍らでシルヴァーが立ち止まった。
 心臓が痛いくらいに強く鼓動を刻んでいる。恐怖は決して弱くなかったが、もたついている場合ではない。瞼を薄く開いて女王を見上げた。

 彼女は棍棒を手にしていた。
 いつの日か僕が作らされ、一度たりとも使われることがなかった、木製の棍棒。それが今、彼女が最も望む方法で使用されようとしている……?
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