少女王とその奴隷

阿波野治

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女王の過去④

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 転機となったのは、あたしたちの王国の船団が島にやってきたことだ。
 彼らは問答無用で監視人たちを皆殺しにすると、代表者が一通の手紙をあたしに手渡した。あたしが島に流されるきっかけとなった戦争で、同盟国に逃げ込んだとの報を聞いて以来消息不明だった、あたしの長兄がしたためたものだ。

 手紙によると、兄は同盟国の支援を受けて兵を挙げ、敵国が占領する祖国を攻撃、見事に奪還を果たしたという。姉や妹たちも無事らしい。
 城に戻ってきてきょうだいでいっしょに暮らそう――そう兄は呼びかけていた。

 手紙を読み終えたあたしの胸に浮かんだのは、帰りたくない、という強い思いだった。
 きょうだいと共同生活を送るのが嫌だったのではない。島での暮らしが気に入っていたから、今さら生活環境を変えたくなかったのだ。歪んだ心の持ち主であるあたしは、不便だからこそ快適な島での生活にすっかり魅了されていたのだよ。

 あたしは死ぬまでこの島で暮らしたい。最低限の物資を定期的に届けてくれさえすれば、それ以上望むものはなにもない。兄には迷惑な話かもしれないが、あたしなりにみなに迷惑をかけない生きかたを熟考したうえでの結論だ。妹からの最後のわがままをどうか聞き入れてほしい。
 以上の旨を書いた手紙を船団の代表者に託し、追い返した。

 兄の使者は二日後、今度は小さな舟にのって少人数でやってきた。
 手紙によると、兄はどうやら、両親が亡くなったにもかかわらず生き残った自責の念から、修道女じみた生活を送ることを望んでいると勘違いしたらしい。
 生き残り、少なからず自分を責めているのは俺もそうだし、妹たちも同じだ。自分で自分を苦しめる道を選ぶのではなくて、両親がいなくなってしまったからこそ、気心の知れたきょうだい同士で力を合わせて仲よく暮らそう。
 ……とかなんとか、そういうピュアなことが書いてあったよ。

 長兄は武人らしく冷酷なところもある人なのだが、祖国復興の悲願を若くして達成したことで、あっという間に平和ボケしてしまったらしい。
 あの兄がこうなったのだから、王家の子女として呑気に暮らしてきた姉と妹たちの現状は、尋ねてみるまでもない。反吐が出るとはこのことだ。

 あたしが望むのはただ一つ、甘美なる苦しみがつきものの環境に身を置き続けること。すっかり平和になった祖国に戻っても、その願いが叶えられるどころか遠ざかるだけだ。
 帰りたくない。島で暮らし続けたい。兄が手紙でなにを書いてきたとしても、その一点張りで押し通した。
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