少女王とその奴隷

阿波野治

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女王の過去⑤

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 やがて兄は「好きにしろ」と白旗を挙げた。
 あたしとしては、武力という手段で無理矢理連れ戻されるのを危惧していたのだが、妹の意思を尊重してくれたらしい。というよりも、諦めたというべきか。

 兄は最初の舟で、腐らせてしまいそうなくらい大量の食料と、こまごまとした必需品の類、そして世話係の女を送り届けてきた。
 有り余るほどの物資も、あたしの世話をする人間も、あたしは望んでいない。帰れと女に命じたのだが、女は「お兄さまの命令ですから」と返すだけで、あたしの言うことなど聞こうとしない。
 仕方なく、漕ぎ手に抗議の手紙を託して帰して、渋々ながらも世話係と暮らしはじめた。

 何度か手紙をやりとりするうちに、物資の量と種類に関しては、部分的にあたしの言い分が聞き入れられたが、世話係を島から去らせることに関しては断固として拒まれた。
「受け入れられないようなら、お前には城に帰ってきてもらうしかない」とまで言って、どうやら兄にとっては譲れない一線らしい。

 島で暮らせなくなっては元も子もないので、あたしは仕方なく折れることにした。
 あたしにとって、あたしの都合どおりにいかないのは気持ちいいことだし、どうせなら、もっと気持ちいい思いをするために女を有効活用してやれ、と考えたのだ。

 島流しにされた当初、敵国の監視人と仲よくなった経験から、人と人が距離を縮めやすい環境なのは分かっていた。
 他人に嫌われるよりも、好かれるほうが断然容易い。仲よくなって、そこからあたしが快楽を得るためには、いかに行動すればいいのか?

 殺そう。
 仲よくなったうえで、殺すのだ。
 そして、かけがえのない仲間の命が失われた悲しみを、喜ぼう。
 それがあたしが下した結論だった。

 一人目の女と仲よくなるのも、殺すのも、殺したことによって得た素晴らしい苦しみも、全てがあたしの予想どおりだった。
 死体は「地獄の穴」に捨て、物資を運んできた役人には「高波にさらわれて死んだ」と報告した。あたしの証言を疑っているようだったが、証拠がない以上は信用するしかない。役人も、兄もな。

 それからは同じことのくり返しだ。
 仲よくなり、殺し、苦しみを喜び、疑われ、新しい人間が派遣され、その者と仲よくなり、殺す――。
 変わったのは、新しい役人に伝える前任者の嘘の死因くらいのものだ。それもまあ、十人を超えたあたりから考えるのが億劫になって、ずっと「湖で溺れて死んだ」とばかり言っていたがな。全部で二十人は殺したんじゃないかな。
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