少女王とその奴隷

阿波野治

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女王の過去⑥

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 そのサイクルを崩したのは、兄だ。
『島での暮らしにも慣れただろうから、一人で暮らしてみてはどうか。それが嫌だと言うなら、大人数を島に常駐させるようにして、不慮の事故に対する警戒態勢を厳重にしたい』
 そう提案してきたのだ。

 というよりも、二者択一を迫ったというべきだろう。役人がこうも続けざまに死ぬとなると、兄としても対策を講じないわけにはいかないらしい。

 実に悩ましい二者択一だった。一人だと殺す悲しみと楽しみがなくなるが、たくさんの人間がいては犯行もままならない。難しいだけで可能性はあるから、後者を選ぼうかとも思ったが、あたしに好意的な人間に囲まれて生活をするのは恵まれすぎている気がして、結局前者を希望した。
 兄がどちらを望んでいたのかは分からないが、なにはともあれ、変死者が頻出する事態に歯止めをかけられてほっとしているようだったよ。

 一人で暮らす代わりにということで、兄に頼んで本国から送ってもらったのが、なにを隠そうシロだ。
 人間のように、親しくなってから殺すつもりで貰い受けた犬なのだが、ともに過ごすうちに情が湧いてね。打算もなにもない、純粋な情が。
 大陸で暮らしていたときもペットを飼ったことはなかったし、動物はそもそも好きではなかったが、飼ってみたことで、犬という生き物の魅力を知ったよ。シロは歪んだ見返りを期待することなく付き合えた、この世界で初めての相手だった。
 ……結局、あたしの手で殺すことになったがな。

 あたしとシロとの生活が軌道にのったころ、クロ、お前がこの島に流れ着いたのだ。
 全く予想していなかった出来事だった。この島には人間が漂着した記録も残っている、という話を役人から聞かされたことはあったが、噂話に尾ひれがついた与太話の類だと思っていたからね。

 お前を見た瞬間、この漂着者と仲よくなったうえで殺したい、という欲望がむらむらと湧いた。
 しかし同時に、昔と同じことをくり返すのも芸がないとも思った。
 なにか方法はないか?
 誰かと仲よくなって、殺す。それ以上の喜びを得られる方法は他にないだろうか?

 身じろぎ一つしないお前を見下ろしながら思案するうちに、お前を奴隷にするというアイディアが不意に浮かんだのだよ。
 お前を客人ではなく奴隷として生活させ、これ以上ないくらい酷い扱いをして、あたしに殺意を抱かせて殺させるというわけだ。

 人間にとっても最も大切なものは、命。
 その命を奪われる瞬間、どれほど素晴らしい快楽を味わえるのだろう?
 なにがなんでも計画を実行に移し、願望を成就させたい。そう強く思った。
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