少女王とその奴隷

阿波野治

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女王の過去⑦

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 お前が記憶を失っていたのは、とんだ僥倖というべきだろう。記憶を奪ったのはあたしだと嘘をつけば、実質的にあたしに服従するしかなくなり、やがて爆発する殺意の威力を高められるからな。
 ……なにを驚いておる? 記憶を奪うなど、できるはずがないだろう。わたしが奪ったのではなくて、お前が勝手に失っただけだ。

 いっしょに暮らしてきたお前ならよく分かっているだろうが、あたしは下品でがさつな女だ。
 とはいえ、腐っても王家の人間だから、物言いや立ち居振る舞いは堂々としている。お前はそれに圧倒され、委縮し、まんまと騙されたのだ。

 お前がこの島に流れ着いた経緯は知らないが、海難事故にでも遭い、荒波に揉まれたショックで記憶が消し飛んだのだろう。
 気の毒だが、あたしの力ではどうすることもできない。

 お前と出会って以来ずっと、あたしは悪知恵を働かせてお前を操ってきた。
 不可解に思った発言や違和感を覚えた行動は、振り返ってみれば様々あったと思うが、原因は全てあたしにあるといっても過言ではない。
 たとえばモノに、食料を届ける頻度を二週間に一回から十日に一回に短縮するように要請しただろう? あれはな、モノが来る間隔を短くすることで、モノに対するお前の愛着を高めさせ、モノを殺したさいにより激しい怒りを抱かせるためだ。

 他にも、挙げようと思えばいくらでも挙げられるが、きりがないからやめておく。
 というよりも、体力がもう残り少なくてね。あまりしゃべれそうにないのだよ。

 唯一思うように事が運ばなかったのが、セックスだ。
 あたしは城で暮らしていた時代に、使用人とままごとのようなセックスをして処女を捨てていたのだが、クロ、お前のような男らしい男と本気でセックスをするのがこうも気持ちいいものだとは、想像もしていなかったよ。
 お前と毎夜のように何時間もセックスをしたのは、純粋に性的快感に魅了されたからだ。
 快楽を遠ざけることで快楽を得ようと試みたことも何度もあったが、無理だった。どうしてもお前を求めてしまった。
 あの時間だけは、歪んだあたしから解放されて、年齢相応の普通の少女になれた。だからクロには感謝している。

 死にかけの身でこうも長々と話すのは苦痛極まりないが、気持ちいいな。秘匿していた事実を打ち明けられたという意味でも、あたしにとっては苦痛こそが快楽だという意味でも。
 誤算は、死にゆく苦しみはあまりにも苦しすぎて、苦しみという喜びを噛みしめるだけの気力が足りないことだが――まあいい。
 これもあたしが選んだ道だ。死ぬのは怖いが、選択を悔いてはいないよ。砂粒ほども悔いていない。

 クロよ、これからはお前がこの島の王だ。
 あたしの命令ではなく、自らの意思の奴隷になって行動するんだ。
 好き勝手に振る舞うがいい、新しき王よ。
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