84 / 85
全ての終わり 前編
しおりを挟む
がくり、とシルヴァーの首が垂れた。
「陛下? 陛下!」
最初は怖々と、途中からは首がもげそうにくらい激しく、女王の体を揺さぶった。
反応はない。
左胸に手を宛がってみる。
鼓動は感じられない。
シルヴァーは、死んだ。
僕の頬を涙が伝う。とても、とても、静かな涙だ。
僕はシルヴァーが死んで、悲しい。悲しんでいる。
「……いや」
違う。悲しみ、だけではない。
喜んでもいる。
というよりも、悲しいことに喜んでいるというべきか。
泣きながら、悲しみながら、喜びながら、僕は理解する。
僕はシルヴァーと同じ性癖の持ち主だ。つ
らくて・苦しくて・悲しいとき、嬉しくて・楽しくて・喜ばしいと思う、そんな歪んだ人間だったのだ。
シルヴァーが危険な人物であることは、早い段階で分かっていた。
モノに頼んで舟にのせてもらい、島から脱出するという方法も、モノの存在を知った時点で思い浮かんでいた気がする。
なにも逃げなくても、シルヴァーよりも僕のほうが体格に勝っているのだから、殺そうと思えばすぐにでも殺せたはずだ。
署名した奴隷契約書だって、なんの効力もないただの紙切れだと理解していた。
それにもかかわらず、島で暮らし続けた。
シルヴァーを殺さなかった。
奴隷であり続けた。
なぜなのか?
奴隷でいたかったからだ。
虐待される日常を送りたかったからだ。
つらさ・苦しさ・悲しさ――すなわち、僕にとっての楽しさ・喜び・嬉しさを味わいたいがために。
この性癖を獲得したのは、記憶を失った副作用なのか。それとも、もともと持ち合わせていたのか。
僕には知る由もないが、真相なんてどうでもいい。
シルヴァーは死んだ。死んでしまった。
僕は女王の亡骸を抱きしめ、しばし両義的な感情に浸った。
* * *
一睡もできないまま、この島に何十回目かの朝がやってきた。
すっかり冷たくなったシルヴァーを肩に担いで、僕は「地獄の穴」へと向かう。
墓穴を掘るための道具は持参しなかった。女王の遺体を運ばなければならないから、道具まで持ち運ぶとなると重たくて大変だ、などというちっぽけな理由からではない。あえて手で掘ることで、完成までの長い時間、シルヴァーとの思い出や今後の僕の人生についてなど、様々な事柄について考えを巡らせたかったのだ。
「地獄の穴」には大量の蠅が飛び交っている。シルヴァーにたかろうとする一匹一匹を手で払いながら、柔らかな大地を地道に掘っていく。
体が、手が、泥まみれになったとしても、僕を叱り飛ばす人間はもはやこの島にはいない。
そう思うと、悲しいというよりも寂しかった。ほのかに甘美な寂しさだった。
当初の予定どおり、様々なことを考えたが、どれもちぎれ雲のようにこま切れで、まとまりに欠ける。
それでも埋葬を完了し、死者に冥福を祈り終えたときには、方針は定まっていた。
島から出よう。
「陛下? 陛下!」
最初は怖々と、途中からは首がもげそうにくらい激しく、女王の体を揺さぶった。
反応はない。
左胸に手を宛がってみる。
鼓動は感じられない。
シルヴァーは、死んだ。
僕の頬を涙が伝う。とても、とても、静かな涙だ。
僕はシルヴァーが死んで、悲しい。悲しんでいる。
「……いや」
違う。悲しみ、だけではない。
喜んでもいる。
というよりも、悲しいことに喜んでいるというべきか。
泣きながら、悲しみながら、喜びながら、僕は理解する。
僕はシルヴァーと同じ性癖の持ち主だ。つ
らくて・苦しくて・悲しいとき、嬉しくて・楽しくて・喜ばしいと思う、そんな歪んだ人間だったのだ。
シルヴァーが危険な人物であることは、早い段階で分かっていた。
モノに頼んで舟にのせてもらい、島から脱出するという方法も、モノの存在を知った時点で思い浮かんでいた気がする。
なにも逃げなくても、シルヴァーよりも僕のほうが体格に勝っているのだから、殺そうと思えばすぐにでも殺せたはずだ。
署名した奴隷契約書だって、なんの効力もないただの紙切れだと理解していた。
それにもかかわらず、島で暮らし続けた。
シルヴァーを殺さなかった。
奴隷であり続けた。
なぜなのか?
奴隷でいたかったからだ。
虐待される日常を送りたかったからだ。
つらさ・苦しさ・悲しさ――すなわち、僕にとっての楽しさ・喜び・嬉しさを味わいたいがために。
この性癖を獲得したのは、記憶を失った副作用なのか。それとも、もともと持ち合わせていたのか。
僕には知る由もないが、真相なんてどうでもいい。
シルヴァーは死んだ。死んでしまった。
僕は女王の亡骸を抱きしめ、しばし両義的な感情に浸った。
* * *
一睡もできないまま、この島に何十回目かの朝がやってきた。
すっかり冷たくなったシルヴァーを肩に担いで、僕は「地獄の穴」へと向かう。
墓穴を掘るための道具は持参しなかった。女王の遺体を運ばなければならないから、道具まで持ち運ぶとなると重たくて大変だ、などというちっぽけな理由からではない。あえて手で掘ることで、完成までの長い時間、シルヴァーとの思い出や今後の僕の人生についてなど、様々な事柄について考えを巡らせたかったのだ。
「地獄の穴」には大量の蠅が飛び交っている。シルヴァーにたかろうとする一匹一匹を手で払いながら、柔らかな大地を地道に掘っていく。
体が、手が、泥まみれになったとしても、僕を叱り飛ばす人間はもはやこの島にはいない。
そう思うと、悲しいというよりも寂しかった。ほのかに甘美な寂しさだった。
当初の予定どおり、様々なことを考えたが、どれもちぎれ雲のようにこま切れで、まとまりに欠ける。
それでも埋葬を完了し、死者に冥福を祈り終えたときには、方針は定まっていた。
島から出よう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる