少女王とその奴隷

阿波野治

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全ての終わり 後編

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 舟にのって島までやってきた役人に、僕はシルヴァー殺害を自供した。これまで一度も崩れることがなかった彼女たちの無表情が、初めて歪んだ。

「地獄の穴」まで彼女たちを案内し、墓を掘り起こして遺体を見せた。彼女たちは僕の供述が真実だと納得したようだ。殺害に至った経緯、そして大陸に行って裁きを受けたい旨を伝える。
 僕とシルヴァー共通の性癖に関しては、ほのめかすだけに留めた。感情を殺して職務に励む彼女たちも、本質的には極めて常識的な人間。僕たちの特殊性を完璧には理解してくれないと思ったからだ。

 シルヴァーの遺体は穴に戻された。
 僕はロープで両手を後ろ手に縛られ、黒い布で目隠しをされ、舟にのせられた。
 三人がのった舟が島を離れ、大海原を進みはじめた。

 僕の視界は封じられているから、景色を眺めることは叶わない。波の音、潮の香り、空を飛ぶ海鳥。どれも島で暮らしていたさいに得ていた情報で、新鮮味は皆無だ。
 島の外にはどんな世界が広がっているのかを、自らの五感で確かめたい。
 それも島を出ることに決めた理由の一つだったから、肩透かしを食らった格好だ。

 しかし、それでも構わなかった。
 なぜって、僕にとって失望や苦痛は愉楽に他ならないのだから。

 特異な状況に置かれていたとはいえ、王家の子女を殺したのだから罪は重い。まず間違いなく、死刑判決が下されるはずだ。どのような方法で罪人の処刑が行われるのかは定かではないが、罪の重さを考えれば、多大なる恐怖と苦痛を伴うやりかたが採択されるのは間違いない。

 シルヴァーは、死が近づくと苦しみを楽しむ気力が失われる、という意味のことを言っていた。
 では、苦しみを楽しむ気力さえも失われた苦しみ、それを楽しめないのだろうか?
 楽しめるのだとしたら、僕のように歪んだ心の持ち主にとって、それこそが究極の快楽といえるのでは?

 ……役人が先ほどからしきりに僕に視線を投げかけてくる。僕の前で舟を漕いでいる役人、背後にいる役人、そのどちらもが。僕は目隠しをされているが、それでも分かる。機能しなくなった視覚を補うべく、他の感覚器官が感度を増しているからだ。
 無表情を作っているが、腹の中では、得体の知れない、気味の悪い男だと軽蔑しているのだろう。

 ありがとう。
 僕にとって他人からそう思われることは、絶世の美女から口づけをされるに等しい。

 しかし、セックスの快楽には及ばない。

 大陸の景色や文化、自らの素性など、知りたいことは山ほどある。知ることが叶わないまま果てるのは悔しいが、同時に快感でもある。
 だから、役人たちよ、今すぐに僕を舟の上から突き落としてはくれないか? いつかの彼女が目論んでいたように。

『本当はな、クロよ、お前を湖に突き落とそうと考えていたんだよ。お前は荒波に揉まれてこの島に流れ着いた男だから、溺れさせるのは最高の制裁になると思ってね』

 やはり、シルヴァーには生きていてほしかった。
 そう思うと、悲しくて、嬉しくて、海のように塩辛い雫が頬を伝った。



* * *


 後ろ手に縛られているが、全身の自由まで制限されたわけではない。
 僕はおもむろに立ち上がると、船縁に足をかけ、高笑いをしながら頭から海に飛び込んだ。
 この世のものとは思えない快楽が僕を包み込んだ。
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