少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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農具を持った男たち

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 そして真一は、進路に壁を作るように複数の人間が立ち並んでいるのを見た。
 背筋を悪寒が駆け上がった。無意識に一歩後退した。その足が落ち葉に滑り、その場に尻もちをついてしまう。顔を上げる。
 壁を構成しているのは総勢五名。初老から老年といった年齢層で、全員が鼠色の作業着に身を包んでいる。男たちはみな、鋤、鍬、その他名称不明の長物――なんらかの農具を手にしている。 

「あんた、何者だ? 見かけない顔だが、なにしに小毬まで来たんだ」

 中央に立つ白髪頭の男性が、一同を代表して問うた。警戒心と敵意をむき出しにした声音と顔つきに、真一の心身の緊張は一段と高まる。全員、真一への敵意を露わにした攻撃的な顔つきだ。

「……見てのとおりの者ですよ。俺はただ、次の札所に向かう道を道なりに歩いていただけです」

 真一はていねいな、それでいて毅然とした口調で言葉を返す。
 相手方は殺気立っていて、凶器に転用可能な代物を手にしているから、感情を刺激したくない。だからといって、弱さを見せすぎれば舐められる。ある程度強気で臨むべきだ。

「あなたたちこそ、そんな物騒なものを人に向けて、いったいどういうつもりですか? 無自覚のうちに失礼なことをしてしまったのなら、もちろん謝ります。ですが、まずはあなたたちのほうから事情を説明してください」
「竹林まで仕事に行っていた者から、虎がうろついているようだから様子を見に行ってくれと頼まれたんだ。そうしたら、虎ではなく見知らぬ怪しい人間が現れたから、何者かと問い質したまでだ」
「虎? 虎って、あの動物の?」
「そうだ。それ以外になんの虎がいるんだ」

 真一は首を捻った。
 竹林はたしかに虎を連想させる自然環境だが、そもそも日本に野生の虎は棲息していない。「大型で凶暴な生物」という意味で虎という言葉を使ったのかと思ったが、「それ以外になんの虎がいる」と男たちの一人は発言した。顔つきも態度もいたって真剣で、冗談を言ったとは思えない。
 汗ばんだ背中と、汗が染みこんだ衣服の隙間が、急に冷たくなった。

「よそ者のあんたは知らんだろうが、その虎は人食いでな。時折私たちの地区に現れては人を殺し、食い散らかしていくから、私たちは常に最大級の警戒を怠らないようにしているんだ。それでも被害を防げないほど、虎は獰猛で強力なのだよ」

 話し手の白髪頭の男性が「人食い」という言葉を口にした瞬間、若干ながらも目を泳がせたのを真一は見逃さなかった。
 竹林に虎が生息している事実を伝えたのはまずかったと、伝えたあとで気がついて動揺したような、そんな反応に見えた。

 第六感が「チャンスだ!」と叫んだ。
 その声に込められた熱量とは対照的な沈着冷静さで、真一は頭を高速回転させる。

 現在地の近くに、目の前にいる彼らが暮らしている村なり町なりがある。その村なり町なりの住人は、たびたび出没する人食い虎に悩まされている。初対面のよそ者に思わずこぼしてしまうくらいに悩まされている。
 対する沖野真一は、四国八十八か所遍路を装った、二百万円の借金がある二十代なかばの男。目的は札所を巡ることではなく、「自分にとって大きなプラスとなるなにか」を手中に収めること。

 馬鹿げた、それでいて心躍る妙案を閃いた。
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