少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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 真一はおもむろに腰を上げ、尻を両手で払った。衣服に付着した葉も同じく払い落す。その全てを、もったいぶったような、落ち着き払った所作で行った。
 雰囲気の変化を感じとったらしく、男たちは面持ちをほのかに緊張させて、よそ者の一挙一動を見守っている。

 菅笠を脱ぐ。暑さ対策で丸めた頭と、無精ひげの組み合わせは、白装束をまとうことで、風格を備えた僧らしく真一を見せる。彼はその事実をきちんと把握している。
 男たちは真一の認識どおりの印象を抱いたらしい。ある者は軽くのけぞる。ある者は一歩後ずさる。

 真一はかすかに眉根を寄せた顔で、一人一人の顔を順番に、さも意味ありげに見つめる。そうすることで間を演出したうえで、厳かな口調で告げた。

「お気づきのかたもいるかもしれないが、私は旅の僧だ。自分でこう言うのも面映ゆいが、高い地位に就いている。なにゆえに旅をしているのか? 俗世で暮らす者はもちろん、並大抵の僧では使えぬ超現実的な力――すなわち法力を操る者として、心技体を鍛える必要があるからだ」

 男たちはざわめき、互いに顔を見合わせる。
 なんだよ、いい反応をするじゃないか。
 真一は声を上げて笑いたい気持ちを抑え、男たちの反応が満更でもないというふうにただただ微笑する。

「なぜ力を持っていると告白したかというと、先ほどあなたの口から『人食い虎』という言葉が出たのを聞いて、もしかしたら力になれるのではと考えたからだ。人食い虎があなたたちの暮らす地区に出没して、地区の住人たちを食い殺すが、あなたたちにはなす術がない。誰かに助けてほしい。その認識で正しいかな?」
「あ、ああ……。あなたさまの言うとおりだ。こんな重装備で見回りに来たのがなによりの証拠だよ」

 白髪頭が答えた。出会った当初の攻撃的な雰囲気はすっかり鳴りを潜め、上司の顔色をうかがう気弱な平社員のようだ。

「やはり事実でしたか。犠牲者がすでに出ているのは残念ですが、ならばせめて、これ以上の犠牲が出ないように手を尽くすべきです。奇妙な形の出会いになってしまいましたが、これもなにか縁。もしよければ、人食い虎退治にご協力させていただけませんか? 私の力であれば、みなさんの念願が叶うのも決して夢物語ではないと思いますが」

 ざわめきが起こり、顔を見合わせるという、先ほどと似たような反応。真一は声が収まるのを待たずに言葉を追加する。

「僧職に就く人間は人助けをするのが務め。簡単な仕事ではないかもしれませんが、喜んで協力しますよ。準備が必要なので、今日明日中に片づけられないのが心苦しいですが――」

 右手の指を三本立てて顔の高さにかざす。

「三日。三日私にくだされば、あなたたちを悩ませる怪物を必ずや退治してみせましょう。いかがですか?」
「その話がほんとうならありがたいが……。しかし、私たちにはなんの権限もないから、まずは地区長さんに相談してみないと」
「地区長?」
「私たちが住む地区は小毬というのだが、そのトップを地区長と呼んでいる。まだ若いが、見識が広く、理解力のあるかただ。彼女がなんと言うかは分からんが、ぜひ会ってほしい」
「ぜひ会いたいので案内していただけますか? よろしくお願いします」

 恭しく、深々と頭を下げる。尊大だと受けとられかねないくらいの態度をとりながらも、謙虚さを見せるべき場面ではしっかりと見せる。若き高僧という役職を演じるにあたって、これが最善の振る舞いのはずだ。虎を退治する力が嘘だとばれたときや、疑われたさいに、人間性に好感を持ってもらっていたほうが挽回しやすい、という計算もあった。

「では、行きましょう。十分もあれば着きます」
 男たちが歩き出したので、その後ろについていく。
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