少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

文字の大きさ
47 / 120

作戦

しおりを挟む
 ひとまず虎との約束の一つは果たせそうだが、素直に喜べなかった。「これだけのことをするのだから、人食い虎退治は絶対に成功させてね」という、咲子からの無言の圧力をひしひしと感じるのだ。
 虎退治作戦において、明日という日が一つの重大な区切りになるのは間違いない。
 咲子や住人たちをどう言いくるめるのかは、まだ輪郭さえも掴めていないというのに。

「肉という言葉でふと思ったのですが、虎に毒入りの肉を与えて毒殺を試みる、といった作戦は今までに講じられましたか?」
「やりましたよ。そんなこと、とっくの昔にやりました」

 少し眉をひそめて咲子は言葉を返した。

「試したけど、効果はなかったですね。まったく手つかずどころか――汚い話だけど、こけにするみたいに肉の上に糞がしてあって。人食い虎の知能は高いと言っていいんじゃないかな。襲撃のタイミングも、ランダムだとは思うんだけど、こちらが一番油断しているときを狙っているような節もあるし」
「ただ力が強いだけではない、だからこそ手ごわい、ということですね。ではそれ以外に、虎対策として実施したことがあれば教えていただけますか」
「思いついたものから試していっているって感じだけど、結果はことごとく空しかったわ。まあ、練りに練っても通用するとは思えないけど」

 咲子はため息混じりに、実行済みの作戦の概要について説明する。市販や自作の罠をいくつか設置したが、いずれにも虎の毛一本すらも付着していなかったという。

「あとは、そうね。これは沖野さんにも秘密にしていたんだけど、実は住人総出での山狩りを計画しているんです」
「大人数で武器を手に竹林に乗り込む、ということですか?」
「おっしゃるとおりです。初日に沖野さんと鉢合わせしたときの楠本さんたちみたいに、農具を武器として使うのではなくて、本物の武器を今集めているところで。一つ一つが決して安くないから、全員に行き渡るまであと何か月かかるのかというペースではあるんだけど、着実に準備は整ってはいるんですよ。あまり時間をかけすぎても犠牲者が増えるだけだし、どの程度戦力が整備された時点で決行に踏み切るべきなのか、判断がとても難しくて、今も悩んでいて」

 説明の言葉が重なれば重なるほど、咲子の話しぶりには熱がこもっていく。
 槍や日本刀を手にした、総勢百名ほどの小毬の住人たちが、竹林で血みどろの戦いをくり広げる光景を、真一は想像に描いてみる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...