少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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二人で虎のもとへ

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 南那は真一がいつも通っているのとは違う道を通って竹林を奥へと進む。竹以外の植物の勢力はそう強くはなく、妨害を受けないので比較的通りやすい。

「虎のやつ、俺にだけ険しい道のりを歩かせていたのかよ。不公平だ」
「初顔合わせの場所がたまたまそこだったというだけで、深い意味はないと思いますが」
「いや、違うね。あいつ、絶対に南那ちゃんを贔屓してるよ。好色そうな顔してるもん、あのネコ科の畜生」
「動物の顔なのに、分かるものなんですね」
「なんとなくはね」

 虎に会いに行くための道のりが思っていたよりも険しくない、という事実を真一が指摘してからは、会話は奇妙に弾んだ。虎が南那を重宝していると分かって、下手を打たない限り殺される心配はまずない、という安心感が生まれたせいか。それとも、真一は嘘が、南那は隠しごとが、それぞれ相手に露見したことで、心理的な距離が縮まったのか。二人を包む和やかな雰囲気は、会いに行く相手が人食い虎であることを考えれば異常だ。

 南那がいつも虎と落ち合っている場所は、竹と竹との間隔が周囲と比べて広がり、ちょっとした広場のようになっていた。その中央に、かつて真一が座った集会場の壇上を思わせる、地面から四角く土が盛り上がった箇所がある。
 虎はその上に体を横たえていた。真一との二度目の対面から見せるようになった、家ネコが家人の前でよく見せるリラックスした姿勢だ。

 木漏れ日に照らされながら威風堂々と構えた姿を一目見た瞬間、真一は竹林に入ってからの雰囲気を百八十度ひっくり返したように緊張した。
 一方の虎は、別段感情を動かされたようではなく、悠然と寝そべったまま、近づいてくる二人の動きを目で追っている。人間の歩みの遅さを小馬鹿にするように、細いしっぽを上下に揺らしながら。

「いつの間に行動をともにするようになったんだ、沖野真一に今宮南那よ」

 目の前で足を止めた二人に、虎はそんな言葉をかけた。人間だったならばにやにや笑いとセットだっただろうというような、嘲りの成分を多分に含んだ声だ。

「どちらからだ? やはり年上の沖野真一からか? もう交尾は済ませたのか? ん? もしそうだとしたら、至極残念だなぁ。僕は南那に惚れていたのに」
「俺たちが二人で来たこと自体には驚かないんですね」
「いつの日かこんなときが来るかもしれないと思っていたからね。惚れていた今宮南那を寝取られたことのほうが僕はショックだよ。お前を殺してやりたいくらいショックだ――と言いたいところだが、僕は理性を兼ね備えた獣だからね。まずは事情を聞こうか。お前たちには報告義務があるのだから、義務を果たせ」

 二人は包み隠さずに説明した。基本的には真一がしゃべり、南那が最小限の的確な言葉で補う、という役割分担。事前の打ち合わせもパート決めもなかったが、スムーズに必要な情報を提供できた。
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