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虎の意見
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「なるほどね。『いつの日かこんなときが来るかもしれない』という発言をさっき僕はしたが、お前たちの場合にも当てはまる一言なのかもな」
「そうですね。嘘や隠しごとはいずればれる。みんなは思ったよりも頭がよくないし、頭が悪いわけでもない」
「二人で協力したほうが、僕が望んでいるものを効率的に入手してくれそうだから、僕としては大歓迎だよ」
「たしかに、やりやすいかなとは思いますね。咲子さんは南那ちゃんには厳しいけど、俺には甘いから。……ああ、そうそう、思い出した。もう一つの約束、住人たちの虎対策についてなんですけど」
「進展があったのか? 沖野真一の術が発動するまで大人しく待機している状況だと、僕は認識しているのだが」
「だからこそ、と言ってしまってもいいのかな。咲子さんは鎮虎祭という祭り、というよりも儀式ですかね。それを執り行って、力が発動するまでの日々をしのごうと考えているみたいです。災厄や疫病を大人しくさせるための儀式、という説明を南那ちゃんから受けましたが」
「鎮虎祭……」
虎が急に極端に声を低めたので、真一の心身の緊張は高まった。鎮虎祭がいかなる儀式なのかをある程度詳しく把握しているらしいと、たった一言の声の響きから読みとれた。
南那は今朝、咲子と交わした話の内容について説明した。一度真一に話したからだろう、語り口は整然としていて淀みがない。黙ってそれを聞いていた虎は、南那が話し終えるなり、声の低さを維持したまま彼女に言った。
「殺されたふりをしていればいい? 馬鹿を言え。僕を憎んでいる西島咲子が、そんな絶好の機会に、僕に好意的だと疑われているお前を生かしておくと思うか? 殺したふりじゃなくて、お前を実際に殺すつもりなんだよ、あの女は」
「根拠は? 当たり前だけど殺人は犯罪ですよね」
迫力に気圧されながらも真一は問いをぶつけた。虎はまるで舌打ちをするかのように小さく唸り、
「馬鹿が。僕に襲われて殺されたことにすれば、それで一件落着だろう。根拠? そんなもの、西島咲子だからだよ。殺したいほど僕を憎んでいるあいつは、僕だけではなく僕の味方にも容赦しない。だから、今宮南那を殺す。そういうことだ」
父親を虎に殺されるという不幸な身の上ながらも、南那に同情的ではないどころか、不当に厳しく接する咲子の姿を、真一は何度も見ている。だから、虎の言い分には一理あると思った。しかし、感情的な言葉の数々を聞いているうちに、むしろ虎のほうがより激しく咲子を憎んでいるのではないか、という疑念が生まれた。
「――沖野真一。お前のその顔、おそらくこう思っているんじゃないか? お前はなぜこうも西島咲子を憎んでいるのか。西島咲子が中後保を憎んでいる以上に、中後保が西島咲子を憎んでいるように感じる、と」
まさに図星をつかれて、真一は思わず後ずさりをしてしまうほど動揺してしまった。読心術でも使ったのかと本気で疑ったが、からくりは単純だとすぐに気がつく。
虎は自覚しているのだ。咲子にネガティブな意味から執着している自分に気がついているのだ。
「せっかく僕が心を許している二人が揃ったんだから、昔話をしようか。時間も腐るほどあることだしな。まあ、座るがいい」
真一と南那は視線を交わし合い、地べたに尻を下ろす。虎は考え込むような顔つきで近くに生えている竹を数秒ほど見つめ、それから顔を二人に向けて話しはじめた。
「そうですね。嘘や隠しごとはいずればれる。みんなは思ったよりも頭がよくないし、頭が悪いわけでもない」
「二人で協力したほうが、僕が望んでいるものを効率的に入手してくれそうだから、僕としては大歓迎だよ」
「たしかに、やりやすいかなとは思いますね。咲子さんは南那ちゃんには厳しいけど、俺には甘いから。……ああ、そうそう、思い出した。もう一つの約束、住人たちの虎対策についてなんですけど」
「進展があったのか? 沖野真一の術が発動するまで大人しく待機している状況だと、僕は認識しているのだが」
「だからこそ、と言ってしまってもいいのかな。咲子さんは鎮虎祭という祭り、というよりも儀式ですかね。それを執り行って、力が発動するまでの日々をしのごうと考えているみたいです。災厄や疫病を大人しくさせるための儀式、という説明を南那ちゃんから受けましたが」
「鎮虎祭……」
虎が急に極端に声を低めたので、真一の心身の緊張は高まった。鎮虎祭がいかなる儀式なのかをある程度詳しく把握しているらしいと、たった一言の声の響きから読みとれた。
南那は今朝、咲子と交わした話の内容について説明した。一度真一に話したからだろう、語り口は整然としていて淀みがない。黙ってそれを聞いていた虎は、南那が話し終えるなり、声の低さを維持したまま彼女に言った。
「殺されたふりをしていればいい? 馬鹿を言え。僕を憎んでいる西島咲子が、そんな絶好の機会に、僕に好意的だと疑われているお前を生かしておくと思うか? 殺したふりじゃなくて、お前を実際に殺すつもりなんだよ、あの女は」
「根拠は? 当たり前だけど殺人は犯罪ですよね」
迫力に気圧されながらも真一は問いをぶつけた。虎はまるで舌打ちをするかのように小さく唸り、
「馬鹿が。僕に襲われて殺されたことにすれば、それで一件落着だろう。根拠? そんなもの、西島咲子だからだよ。殺したいほど僕を憎んでいるあいつは、僕だけではなく僕の味方にも容赦しない。だから、今宮南那を殺す。そういうことだ」
父親を虎に殺されるという不幸な身の上ながらも、南那に同情的ではないどころか、不当に厳しく接する咲子の姿を、真一は何度も見ている。だから、虎の言い分には一理あると思った。しかし、感情的な言葉の数々を聞いているうちに、むしろ虎のほうがより激しく咲子を憎んでいるのではないか、という疑念が生まれた。
「――沖野真一。お前のその顔、おそらくこう思っているんじゃないか? お前はなぜこうも西島咲子を憎んでいるのか。西島咲子が中後保を憎んでいる以上に、中後保が西島咲子を憎んでいるように感じる、と」
まさに図星をつかれて、真一は思わず後ずさりをしてしまうほど動揺してしまった。読心術でも使ったのかと本気で疑ったが、からくりは単純だとすぐに気がつく。
虎は自覚しているのだ。咲子にネガティブな意味から執着している自分に気がついているのだ。
「せっかく僕が心を許している二人が揃ったんだから、昔話をしようか。時間も腐るほどあることだしな。まあ、座るがいい」
真一と南那は視線を交わし合い、地べたに尻を下ろす。虎は考え込むような顔つきで近くに生えている竹を数秒ほど見つめ、それから顔を二人に向けて話しはじめた。
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