少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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戦いが終わって②

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「しかし、中後。別れるとなるとさびしいものね。住人をさんざん殺して、人間だったころは私を犯そうとしたクズだというのに」
「やはり赦していないか」
「当たり前でしょ。住人たちだってそれは同じ。家族を殺された住人は、今もあなたを死ぬほど憎んでいる。殺したいほど憎んでいる」
「言われなくても分かっている。だから、消えるよ。二度と戻ってはこないから、今夜からは安心して眠ってくれ」
「あなたはよく夜襲をかけてきたよね。でかい図体を持ちながら、闇討ち。マジで卑怯者のクズだよね」
「効率的に殺せるやりかたを選んだだけであって、卑怯な真似が好きなわけじゃないよ。ライオンだって、一対一でもシマウマやインパラなんかには絶対に負けないが、集団で襲うだろう」
「虎のくせに、なにライオンの話をしてるの」
「ツッコミを入れてくれるなんて、うれしいじゃないか」
「まあ、これが最初で最後だけどね。……南那を不幸にしたら承知しないからね」
「この子をさんざん厄介者扱いして、虐げていたくせに、よく言うよ」
「腐っても親ってことなんでしょうね」

 小さく息を吐き、虎の隣に黙然と佇む南那を見つめる。

「あなたのこと、ずっと嫌いだった。なにを考えてるのか分からないところとか」
「知っていました。でも、わたしは咲子さんのこと、そんなに嫌いではなかったです。だから嫌われていると知ってからは、あまり近づかないようにしました」
「そっか。親に気をつかうとか、やっぱり私の嫌いなタイプね、あなたは」
「……すみません」
「でも、虎と比べたらどうだろう、という気はするね。いけすかないけど、人間時代は強姦未遂、虎になってからは人を殺しまくった男とは、憎しみの度合いが全然違う。――中後とせいぜい上手くやって、せいぜい長生きしなさい。私の目の届かない場所で、ひっそりと。それがあなたの親孝行」
「分かりました。ありがとうございます。お世話になりました」
「やっぱりむかつくけど……。まあ、いいや」

 咲子は髪の毛を少し荒っぽくかきむしながら一歩、二歩と後退する。虎と南那の視線が真一へと注がれる。先に虎がしゃべりかけてきた。

「お別れのようだな、真一よ」
「そうだね。いろいろあったけど、なんていうか、忘れられない思い出にはなったよ。死ぬかボケるかするまで絶対に忘れないんじゃないかな」
「そうか、それはなによりだ。……南那、別れの言葉を」
「分かってる。真一さん」
「はい」
「外部の人間がもたらす力というのはすごいものなんだなって、今回の件で身をもって知りました。わたしたちは誰の目も届かない場所に行ってしまうけど、そのことを学べたというのは、今後の人生にプラスに働くと思います。ありがとうございました」

 生真面目な一礼。釣り込まれて真一も頭を下げる。頭部の高度を元に戻したとき、南那は真一に背を向けていた。

「さようなら、真一さん」
「さようなら、南那ちゃん。中後保も。またどこかで会おうぜ」
「ああ。さらばだ」

 一人と一頭は竹林に向かって歩き出す。真一と咲子はその場に佇み、彼らの姿が見えなくなるまで見送った。
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