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「でも、こうして九条さんと一緒に食事ができて、今日はよかった。屋上で話をするって決まったとき、正直に告白すると、二人で昼食を食べる展開を期待していたから」
「そんなに心躍るイベントなの? 食事を共にするというのは」
「心躍るよ。気が置けない人が相手なら、だけどね。九条さん的にはどうなの?」
「楽しくない、わけではないかな。遠藤くん、私が嫌な気持ちになることは言わないから。よくしゃべるな、とは思うけど」
「よくしゃべる? そうかな。九条さんがあまりしゃべらないから、無意識に引っ張る側に立とうとしているのかもしれないね」
僕は普段、友達付き合いを全くしない人間だ。トークに長けている自覚、人と話すのが好きだという自覚、どちらもない。無口な九条さんにとっては、殆どの人間が「よくしゃべる人間」なのだろう。
「でも、別に、うるさくはないから。よくしゃべるけど、うるさくはない」
「さっき言った川の音みたいに、不愉快ではないということ?」
「少なくとも、邪魔ではないかな」
「そういうことなら、よかった。九条さんってリアクションが希薄だから、しゃべっていて不安だったんだよね」
「話が上手いとは思わないけどね」
「その一言は余計だけど――でも、うん、やっぱり嬉しいよ。九条さんが楽しんでくれているみたいだから」
食事を終えた僕たちは、下流に向かって河原を歩くことにした。
会話の内容は引き続き、他愛もない、悪く言えばくだらないこと。足元が悪いので、そちらに注意をとられて、言葉のキャッチボールが途切れることもたびたびあった。不思議なのは、向かい合って食事をしていたときよりも並んで歩いている今の方が、緊張を強く感じることだろう。飛び交う言葉の頻度が減少したのに伴い、静けさが強く訴えかけてくるせいで、二人きりというシチュエーションを強く意識してしまうから、だろうか。
とはいえ、全体的な雰囲気は悪くない。むしろ、とてもいい。要するに、いい意味で緊張感がある。
駅前で合流してからの二時間ほどで、僕は九条さんという風変わりな少女に、随分と適応できた気がする。
口の中のキャンディを見せられたときはさすがに慌てたが、どぎまぎさせられるような一言を九条さんが口にしても、あからさまに戸惑うことなく受け流したり、受け止めたりできるようになってきた。息苦しい雰囲気の中、相手の腹の中を探りながら言葉を交わすよりも、明るい光の下で気軽に言葉を交わす方が、当たり前だがずっと楽しい。
十分ほど歩くと、少し大きめの岩が密集し、進路を半ば防いでいた。迂回したり、乗り越えたりして先へ進めないわけではないが、苦労をしてまで散策を続行する理由はない。双方の合意のもと、踵を返す。
「このままずっと川に沿って歩き続けて、家まで帰るつもりなのかと思ってた」
「まさか。荷物を置きっぱなしだし、それはないよ。ていうか九条さん、どれだけ僕を変なやつにしたいの」
「私と一緒にどこかへ遊びに行こうだなんて提案する時点で、そうだと思う」
「そんなことないって」
九条さんが石に躓いて転んで、助け起こすさいに体が密着して――などというベタなアクシデントも起こらないまま、僕たちは元の場所に戻ってきた。
「そんなに心躍るイベントなの? 食事を共にするというのは」
「心躍るよ。気が置けない人が相手なら、だけどね。九条さん的にはどうなの?」
「楽しくない、わけではないかな。遠藤くん、私が嫌な気持ちになることは言わないから。よくしゃべるな、とは思うけど」
「よくしゃべる? そうかな。九条さんがあまりしゃべらないから、無意識に引っ張る側に立とうとしているのかもしれないね」
僕は普段、友達付き合いを全くしない人間だ。トークに長けている自覚、人と話すのが好きだという自覚、どちらもない。無口な九条さんにとっては、殆どの人間が「よくしゃべる人間」なのだろう。
「でも、別に、うるさくはないから。よくしゃべるけど、うるさくはない」
「さっき言った川の音みたいに、不愉快ではないということ?」
「少なくとも、邪魔ではないかな」
「そういうことなら、よかった。九条さんってリアクションが希薄だから、しゃべっていて不安だったんだよね」
「話が上手いとは思わないけどね」
「その一言は余計だけど――でも、うん、やっぱり嬉しいよ。九条さんが楽しんでくれているみたいだから」
食事を終えた僕たちは、下流に向かって河原を歩くことにした。
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とはいえ、全体的な雰囲気は悪くない。むしろ、とてもいい。要するに、いい意味で緊張感がある。
駅前で合流してからの二時間ほどで、僕は九条さんという風変わりな少女に、随分と適応できた気がする。
口の中のキャンディを見せられたときはさすがに慌てたが、どぎまぎさせられるような一言を九条さんが口にしても、あからさまに戸惑うことなく受け流したり、受け止めたりできるようになってきた。息苦しい雰囲気の中、相手の腹の中を探りながら言葉を交わすよりも、明るい光の下で気軽に言葉を交わす方が、当たり前だがずっと楽しい。
十分ほど歩くと、少し大きめの岩が密集し、進路を半ば防いでいた。迂回したり、乗り越えたりして先へ進めないわけではないが、苦労をしてまで散策を続行する理由はない。双方の合意のもと、踵を返す。
「このままずっと川に沿って歩き続けて、家まで帰るつもりなのかと思ってた」
「まさか。荷物を置きっぱなしだし、それはないよ。ていうか九条さん、どれだけ僕を変なやつにしたいの」
「私と一緒にどこかへ遊びに行こうだなんて提案する時点で、そうだと思う」
「そんなことないって」
九条さんが石に躓いて転んで、助け起こすさいに体が密着して――などというベタなアクシデントも起こらないまま、僕たちは元の場所に戻ってきた。
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