僕は君を殺さない

阿波野治

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 友達がいない人間は滅多に外には出かけない。一人での外出を楽しめる人間は、ちゃんと友達を作れる人間だろう。
 どちらの能力も持ち合わせていない僕は、次に出かける場所を決めるという課題に直面し、苦手な教科のテストで出題された難問に臨んでいるも同然になった。これという店や施設が全く思い浮かばないのだ。

 誕生日プレゼントはサプライズで贈ることもあれば、誕生日を迎える当人に事前に聞き取りをし、要望に叶うものを、あるいはそれを参考に選んで贈る場合もある。後者の例に倣って、どこへ行きたいかを九条さんに尋ねてみたが、

『どうぞ遠藤くんのお好きなように』

 返ってきたのは、実に素っ気ない短文。顔が見えず声が聞こえない状況だと、突き放されている感じが強くして、軽く焦ってしまう。僕は食い下がったが、意思表示はしたのだからその話はもう終わったとばかりに、九条さんはその話題に全く触れなくなった。

 十代の男子が恋人と足を運ぶ場所には、どこがお誂え向きなのだろう。どういう単語で検索をかけて、どういうサイトにアクセスすれば、必要な情報が得られるのだろう。それとも、雑誌でも買ってリサーチした方がいいのだろうか。
 そんな初歩的なことでさえも、恥ずかしながら僕は分からなかった。僕一人の問題であれば匙を投げていたかもしれないが、九条さんに楽しんでもらうという大事な目的がある。分からないなりに粘り強く、自分なりに試行錯誤しながら答えを求めた。

 そして、導き出された結論は、


* * *


「オムライスが美味しい洋食屋さん」
 九条さんは僕の顔を見返しながら、僕が告げた言葉を復唱した。
 午前十一時半。待ち合わせ場所となった駅舎の前で、合流を果たしてすぐのことだ。

 僕は頷いて頬をかく。顔に浮かんでいる笑みは、苦笑いにも見えるものになっているに違いない。

 九条さんは今日も黒尽くめの服装に身を包んでいる。前回と全く同じではないが、驚くほど似た衣装だ。年ごろの女の子にしては珍しく、服装に特にこだわりはないらしい。
 それは他人に対しても同じらしく、前回も、そして今回も今のところは、僕のファッションには一切言及してこない。そちら方面に自信を持っていないこちらとしては、駄目出しをされずに済むのはありがたい。センスがないと自覚していても、面と向かって指摘されればやはり凹むものだから。

「遊びに行くというというよりも、食事に行くという感じ?」
「そうだね。いろいろ検討したんだけど、これという場所を見つけられなくて」

 苦笑気味の笑みになった原因は、まさにそれだ。優柔不断というべきか、自意識過剰というべきか。仮に行き先が気に入らなかったとしても、九条さんは僕のセンスのなさを嘲るような人ではない。そう頭では分かっていたが、自信を持てないまま提案する勇気はどうしても湧かなかった。

「食べたかったんだ。オムライス」
「んー、どうなんだろう。もちろん、美味しそうだと思ったから食べに行くことにしたんだけど、とにかく外食したい気持ちが強いのかもしれない。一人で行くのは抵抗があるけど、一緒に行くような友達はいなかったから」
「私の存在が好都合だった、と」
「そうなるね。でも、九条さんと一緒に楽しみたい気持ちが一番だから」
「事情はだいたい分かったから、そろそろ移動しない?」
「うん、そうしよう」
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