21 / 66
21
しおりを挟む
友達がいない人間は滅多に外には出かけない。一人での外出を楽しめる人間は、ちゃんと友達を作れる人間だろう。
どちらの能力も持ち合わせていない僕は、次に出かける場所を決めるという課題に直面し、苦手な教科のテストで出題された難問に臨んでいるも同然になった。これという店や施設が全く思い浮かばないのだ。
誕生日プレゼントはサプライズで贈ることもあれば、誕生日を迎える当人に事前に聞き取りをし、要望に叶うものを、あるいはそれを参考に選んで贈る場合もある。後者の例に倣って、どこへ行きたいかを九条さんに尋ねてみたが、
『どうぞ遠藤くんのお好きなように』
返ってきたのは、実に素っ気ない短文。顔が見えず声が聞こえない状況だと、突き放されている感じが強くして、軽く焦ってしまう。僕は食い下がったが、意思表示はしたのだからその話はもう終わったとばかりに、九条さんはその話題に全く触れなくなった。
十代の男子が恋人と足を運ぶ場所には、どこがお誂え向きなのだろう。どういう単語で検索をかけて、どういうサイトにアクセスすれば、必要な情報が得られるのだろう。それとも、雑誌でも買ってリサーチした方がいいのだろうか。
そんな初歩的なことでさえも、恥ずかしながら僕は分からなかった。僕一人の問題であれば匙を投げていたかもしれないが、九条さんに楽しんでもらうという大事な目的がある。分からないなりに粘り強く、自分なりに試行錯誤しながら答えを求めた。
そして、導き出された結論は、
* * *
「オムライスが美味しい洋食屋さん」
九条さんは僕の顔を見返しながら、僕が告げた言葉を復唱した。
午前十一時半。待ち合わせ場所となった駅舎の前で、合流を果たしてすぐのことだ。
僕は頷いて頬をかく。顔に浮かんでいる笑みは、苦笑いにも見えるものになっているに違いない。
九条さんは今日も黒尽くめの服装に身を包んでいる。前回と全く同じではないが、驚くほど似た衣装だ。年ごろの女の子にしては珍しく、服装に特にこだわりはないらしい。
それは他人に対しても同じらしく、前回も、そして今回も今のところは、僕のファッションには一切言及してこない。そちら方面に自信を持っていないこちらとしては、駄目出しをされずに済むのはありがたい。センスがないと自覚していても、面と向かって指摘されればやはり凹むものだから。
「遊びに行くというというよりも、食事に行くという感じ?」
「そうだね。いろいろ検討したんだけど、これという場所を見つけられなくて」
苦笑気味の笑みになった原因は、まさにそれだ。優柔不断というべきか、自意識過剰というべきか。仮に行き先が気に入らなかったとしても、九条さんは僕のセンスのなさを嘲るような人ではない。そう頭では分かっていたが、自信を持てないまま提案する勇気はどうしても湧かなかった。
「食べたかったんだ。オムライス」
「んー、どうなんだろう。もちろん、美味しそうだと思ったから食べに行くことにしたんだけど、とにかく外食したい気持ちが強いのかもしれない。一人で行くのは抵抗があるけど、一緒に行くような友達はいなかったから」
「私の存在が好都合だった、と」
「そうなるね。でも、九条さんと一緒に楽しみたい気持ちが一番だから」
「事情はだいたい分かったから、そろそろ移動しない?」
「うん、そうしよう」
どちらの能力も持ち合わせていない僕は、次に出かける場所を決めるという課題に直面し、苦手な教科のテストで出題された難問に臨んでいるも同然になった。これという店や施設が全く思い浮かばないのだ。
誕生日プレゼントはサプライズで贈ることもあれば、誕生日を迎える当人に事前に聞き取りをし、要望に叶うものを、あるいはそれを参考に選んで贈る場合もある。後者の例に倣って、どこへ行きたいかを九条さんに尋ねてみたが、
『どうぞ遠藤くんのお好きなように』
返ってきたのは、実に素っ気ない短文。顔が見えず声が聞こえない状況だと、突き放されている感じが強くして、軽く焦ってしまう。僕は食い下がったが、意思表示はしたのだからその話はもう終わったとばかりに、九条さんはその話題に全く触れなくなった。
十代の男子が恋人と足を運ぶ場所には、どこがお誂え向きなのだろう。どういう単語で検索をかけて、どういうサイトにアクセスすれば、必要な情報が得られるのだろう。それとも、雑誌でも買ってリサーチした方がいいのだろうか。
そんな初歩的なことでさえも、恥ずかしながら僕は分からなかった。僕一人の問題であれば匙を投げていたかもしれないが、九条さんに楽しんでもらうという大事な目的がある。分からないなりに粘り強く、自分なりに試行錯誤しながら答えを求めた。
そして、導き出された結論は、
* * *
「オムライスが美味しい洋食屋さん」
九条さんは僕の顔を見返しながら、僕が告げた言葉を復唱した。
午前十一時半。待ち合わせ場所となった駅舎の前で、合流を果たしてすぐのことだ。
僕は頷いて頬をかく。顔に浮かんでいる笑みは、苦笑いにも見えるものになっているに違いない。
九条さんは今日も黒尽くめの服装に身を包んでいる。前回と全く同じではないが、驚くほど似た衣装だ。年ごろの女の子にしては珍しく、服装に特にこだわりはないらしい。
それは他人に対しても同じらしく、前回も、そして今回も今のところは、僕のファッションには一切言及してこない。そちら方面に自信を持っていないこちらとしては、駄目出しをされずに済むのはありがたい。センスがないと自覚していても、面と向かって指摘されればやはり凹むものだから。
「遊びに行くというというよりも、食事に行くという感じ?」
「そうだね。いろいろ検討したんだけど、これという場所を見つけられなくて」
苦笑気味の笑みになった原因は、まさにそれだ。優柔不断というべきか、自意識過剰というべきか。仮に行き先が気に入らなかったとしても、九条さんは僕のセンスのなさを嘲るような人ではない。そう頭では分かっていたが、自信を持てないまま提案する勇気はどうしても湧かなかった。
「食べたかったんだ。オムライス」
「んー、どうなんだろう。もちろん、美味しそうだと思ったから食べに行くことにしたんだけど、とにかく外食したい気持ちが強いのかもしれない。一人で行くのは抵抗があるけど、一緒に行くような友達はいなかったから」
「私の存在が好都合だった、と」
「そうなるね。でも、九条さんと一緒に楽しみたい気持ちが一番だから」
「事情はだいたい分かったから、そろそろ移動しない?」
「うん、そうしよう」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる