僕は君を殺さない

阿波野治

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 園内にあるレストランで昼食をとったあとも、僕たちは実年齢よりも子供になって遊んだ。選り好みをしなければ、丸一日つぶせるだけの数のアトラクションが用意されているのは、幸いだった。

「遠藤くん、ごめん」

 そろそろ残り少なくなってきた、まだ乗っていないアトラクションの一つを目指している道中、九条さんが会話の流れとは無関係の言葉を吐いた。怪訝に思いながら振り向いて、ますます驚いた。彼女は僕の右隣ではなく、近くに置かれたベンチの前にいたのだ。
 僕が見ている前で、九条さんは緩慢な挙動でベンチに腰を下ろし、無音の息を吐いた。

 すぐさま駆け寄り、腰を屈めて顔を覗き込む。九条さんは直視されるのを嫌がるようにそっぽを向いた。

「九条さん、大丈夫? まさか、熱中症?」
「違う。ただ、少し歩き疲れただけ。休憩がしたくて」
「……そっか。そうだよね。お昼を食べてから、ずっと歩きっぱなしだったもんね。一日で一番暑い時間帯なのに」

 暑いという単語を口にした途端、頬を滑って顎まで到達した大粒の汗を、したたり落ちるよりも早く手の甲で拭い取る。空を仰げば、視界に映るのは九割以上が青。直射日光は肌を刺し貫くようだ。

 順番待ちの列に並んでいる間、「暑いね」の一言は高い頻度で交わしてきた。危険な暑さだという認識は、互いにしっかりとあったと思う。それでいて、その事実を軽視するような行動をとってきたのは、二人で過ごす時間の楽しさにはしゃぎすぎた、ということなのだろう。

 運動不足に陥りがちなインドア派ではあるが、人並みの体力を持っている僕は、多少無茶をしても平気でいられた。しかし、九条さんはそうではなかった。
 当たり前だ。九条さんは、こんなにも体の線が細い人なのだから。多少鬱陶しがられるくらいに頻繁に、水分補給を促したり、日陰での小休止を提案したりするべきだった。配慮が足りなさすぎた。

 僕は身勝手すぎる。初めて二人で遊びに行くと決まったとき、炎天下を歩かなければならない河原を行き先に選んだことなんて、まさにそうだ。思い出の場所に久しぶりに行ってみたい。そんな自分本位な理由から、九条さんに不要な負担を強いた。彼女が希望した「静かな場所」に該当し、みだりに体を動かさずに済む場所なんて、頭を働かせればいくらでも見つかっただろうに。

 罪悪感と、自分を情けなく思う気持ちが、強固に手を結んで僕を苛む。努めてさり気なく、痛む胸をシャツ越しに握りしめる。

「とにかく、休憩した方がいいね。飲み物を買ってくるよ」
「喉は渇いてないけど」
「でも、水分補給はした方がいいよ。僕も飲みたいし、とりあえず買ってくる。なにが飲みたい?」
「任せる」
「オッケー。それじゃあ、ちょっと待っててね」

 飲料の自動販売機を求めて移動を開始する。最初、汚名を返上しなければ、という思いで頭がいっぱいだったが、それは間違いだとすぐに気がつく。
 僕の失敗なんてどうでもいい。優先するべきは九条さん。彼女を一秒でも早く、今よりも楽にしてあげる。そのことだけを考えて行動するべきだ。

 アイスクリームやジュースを売っている店を見かけるたびに、やっぱり店に入った方がよかったかな、と悔やむ気持ちが芽生えた。炎天下と、空調がきいた屋内の差は大きい。九条さんが一歩も歩けないほど弱っていないことを考えると、なおさら悔やまれる。

 従業員に自販機の場所を尋ね、探す時間を短縮した。好みが分からないので、スポーツドリンクとオレンジ味のジュースを一本ずつ購入する。

「遠藤くん!」
 踵を返そうとして、名前を呼ばれた。ただ呼び止められるのではなくて。

 振り向くと、クラスメイトの井内さんだった。
 見慣れた制服姿ではなく、夏らしい純白のワンピースという出で立ち。飲み物を両手に立ち尽くす僕のもとへ、裾を揺らしながら駆け寄ってくる。
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