塵埃抄

サツマイモ

　会社から帰宅して、部屋の明かりを点けた瞬間、違和感を覚えたの。部屋は朝、出勤する前と同じで綺麗に片付いていて、荒らさた形跡はない。でも、どこかおかしい。室内を見回して、原因が分かったわ。
　サツマイモ。
　部屋の隅、文机の上に、サツマイモが置かれていたの。部屋を出る前はなにも置かれていなかったはずの文机の上に、サツマイモが一つ。
　太くて大きい、新鮮な生のサツマイモだったわ。長さは三十センチ近くあって、太さは成人女性の二の腕くらいあった。鳴門金時？　品種までは分からないけど……。
　私は生のサツマイモなんて買わない。くれた人もいない。そのサツマイモは、私の留守中に誰かが置いたんだと思う。
　一人暮らしの女の部屋に勝手に這入った人間がいる、というだけでも相当ホラーだけど、その上にサツマイモが置かれていたとなれば、怖いどころの騒ぎじゃないわ。
　部屋に不法侵入したのが、ストーカーだとか、その手の人間だったとしたら、なにかもっと生々しいものを残していったと思うの。親切な隣人からのお裾分けの品なのだとしても、文机の上に置かれている、というのは不自然よね。届け先の住人が留守だったとしても、わざわざ部屋に入る必要はない。書き置きを添えて、玄関のドアの前に置いておけば済む話なんだから。百歩譲って、ドアに鍵がかかっていなかったのならまだ分かるけど、ちゃんと戸締りしてあったにもかかわらず、部屋の中に届け物を置くなんて……。
　不埒な輩。親切なご近所さん。そのどちらでもないなら、誰が、いつ、なんの目的で、私が不在の隙を狙って、こんなものを文机の上に置いたの？　なぜサツマイモなの？　サツマイモ以外のものではいけなかったの？
　ほら、見て、私の体。
　部屋に無断でサツマイモを置かれただけで、こめかみに銃口を突きつけられたみたいに震えてる。