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書店内の混沌
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自動ドアを潜り、書店に足を踏み入れる。レジの店員が「いらっしゃいませ」と挨拶をした。文庫本コーナーに直行する。雑誌コーナーの前で、婦人がベビーカーの赤ちゃんをあやしている。赤ちゃんは激しく泣いていて、その声は喧しい。新潮文庫の棚の前で足を止める。梶井基次郎の『檸檬』を抜き取り、表紙をめくる。作者の顔写真と略歴が記載されている。ゴリラに似ているな、と思う。赤ちゃんの泣き声が強まった。泣き声がする方に顔を向ける。婦人は依然として赤ちゃんをあやしている。レジを見ると、店員はハンバーガーを頬張っていた。顔を本に戻す。ゴリラに似ているな、と思う。梶井基次郎。大正から昭和初期にかけて活躍した小説家だが、私はこの作家の作風はあまり好きではない。ではなぜ『檸檬』を手に取ったのか、と考え始めた矢先、悪臭が鼻を衝いた。臭いの発生源を見やると、婦人がベビーカーから赤ちゃんを下ろし、床の上でオムツを交換していた。大便は今にも動き出しそうな形をしている。赤ちゃんの体は人形のように動かないが、泣き声はうるさい。レジに目を転じると、店員は相変わらずハンバーガーを食べていたが、いつの間にか上半身裸になっている。顔を本に戻す。ゴリラに似ているな、と思う。赤ちゃんの泣き声は耳障りで、大便の臭いは不快だ。ゴリラに似ているな、と思いながら本を書棚に戻し、泣き声がする方を向く。婦人は赤ちゃんの両足首を掴んで逆さにし、力任せに何度も、赤ちゃんの頭を床に叩きつけていた。赤ちゃんは泣き続けていて、その顔はゴリラに酷似している。レジに目をやると、ゴリラ顔の店員が全裸でハンバーガーを食べていたが、自動ドアが開いて客が店に入ってきたのを見て「いらっしゃいませ」と言った拍子に、パンの切れ端が数片、口から飛び出した。新しく入ってきた客の顔は、言うまでもなくゴリラに瓜二つで、赤ちゃんの泣き声は喧しく、大便の臭いは耐え難い。
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