塵埃抄

阿波野治

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アイスクリームの季節

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 共産党支部の向かいにあるアイスクリーム屋に、今夏初めて足を運んだ。
 店の前には長蛇の列が出来ていた。全員、十代から三十代くらいの女性だ。気後れしたが、支部長もたまに並んでいるし、と自らに言い聞かせ、最後尾に並ぶ。バニラとイチゴとチョコの三つは定番だから外せないね、おっとチョコミントも忘れてはいけないぞ、などと考えていると、突然、後方から大声が聞こえた。
「シューキンペーが攻めてくるぅ! オスプレイに乗って、大勢のホモとノモを引き連れて、この町を絨毯爆撃しにやって来るぅ!」
 聞いた瞬間、この界隈で有名なサイコ野郎の声だと分かったので、私は顔の向きを変えなかったが、他の人たちは一斉に振り向いた。前に並んでいた女性の顔が視界に映った。二十歳前後の、小綺麗な身形のお嬢さんだったのだが、汚いものが片方の鼻孔から一センチほど外に飛び出している。鼻毛だ。
 声の主の姿を発見できなかったらしく、女性たちは顔を正面に戻した。
 身だしなみに最も気を遣う年頃の女性が、あのような分かり易い異常に気がつかないでいるのは、なぜなのか。不可解極まりないが、理由がなんであれ、このままではまずい。お嬢さんの鼻孔から鼻毛が出ていることが、アイスクリーム屋の店員に知られてしまう。
 出し抜けにプロペラ音が聞こえてきた。私が空を仰ぎ見たのと、行列から悲鳴が上がったのは、同時のことだった。西の空から、こちらへ向かって、オスプレイの大群が飛んでくる。先頭を務める一機の窓越しに、操縦桿を握るシューキンペー――界隈一のサイコ野郎の姿が見えた。それ以外の機体を操縦しているのは、ホモとノモらしい。
 列を成していた女性たちは狂乱の体で逃げ惑う。オスプレイが戦闘機ではないことを知っていた私は、鼻毛のお嬢さんに走り寄って肩を叩き、微笑みかけた。
「アイスは何味を買われるご予定ですか?」
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