塵埃抄

阿波野治

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死骸

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 行きつけのペットショップでキャットフードを購入し、自宅に続く坂道を上っていると、道端で数羽の烏が輪を成し、夢中でなにかをついばんでいた。
 坂道を猛然と下ってきた車が、速度を落とさずに烏たちの真横を走り抜けた。輪が崩れたが、彼らはすぐさま陣形を立て直し、再びしきりにつつき出した。よほど美味い食い物が落ちているらしい。
 彼らが車を避けた際、一瞬、一群の中心に赤い塊が転がっているのが見えた。
 横切る際に輪の中を覗き込んだ。烏たちがついばんでいたのは、案の定、動物の屍骸だった。動物の屍骸だったのだが、皮が引き剥がされ、肉の赤と骨の白が露出し、生前の原型を留めていない。そのグロテスク極まる塊を、烏たちはご馳走をかっ食らうように貪っているのだった。
 この屍骸が、私が飼っている猫の成れの果てだとしたら? 想像した途端、喉の奥から嘔吐感がせり上がってきた。
 愛猫のマロンは屋内で飼っていて、外出は固く禁じている。非現実的で不愉快な想像は止して、早く彼のもとに帰ろう。レジ袋の持ち手を握り直し、足早にその場を後にした。
 自宅の玄関のドアを開けるなり、大声でマロンを呼んだ。だが、鳴き声が返ってくることも、鈴音が近づいてくることもない。愛想だけが取り柄の猫が、今日はどうしたのだろう。
 三和土に立ったまま愛猫の名を連呼していると、マロンではなく妻が居間から出てきた。酷く心細そうな顔つきをしている。
「あなた、マロンが家にいなんだけど、見かけなかった? あなたが出かける時に、ドアが開いた隙に外に出たように思うんだけど」
 烏たちが肉塊をついばんでいる光景がフラッシュバックした。
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