塵埃抄

阿波野治

文字の大きさ
62 / 200

行方

しおりを挟む
 連絡が途絶えたのを心配して、北区の親友宅を訪ねた。留守のようだったが、玄関の鍵はかかっていない。上がり込むと、居間に敷かれた布団の上に小学五年生くらいの女児が寝そべり、テレビを観ていた。頬杖をつき、口を半分開け、物憂げに画面を見つめるその姿は、薬物中毒者を連想させた。
 親友は未婚で、子供もいなかったはずだ。
 女児は私の存在に気づいているのかいないのか、テレビから目を離さない。狭い画面の中で、全裸の白人女性が後ろ手にいましめられ、もがいている。女性の眼前に立った黒人男性が、笑いながら拳銃の引き金を引いた。作り物くさい銃声が轟き、女性の左胸に穴が穿たれた。半歩遅れて赤い液体が溢れ出す。女性は首を垂れたきり、ぴくりとも動かない。女児が観ているのは、親友が趣味で蒐集しているスプラッタ映画の中の一作だった。
 親友は女児を誘拐し、自宅に軟禁しているのではないか、と私は疑った。そういえば、知人が校長を務めている小学校の女子児童が、数日前から行方知れずになっている、という話だった。親友宅を抜け出し、その知人に電話をかけた。
 親友宅にいた女児の特徴を伝えると、行方不明の女児に違いない、と知人は断言した。そして笑いながらこう付け加えた。
「君の親友が女児を軟禁している事実は、警察には絶対に報せないでくれよ。私は、女児が遺体となって発見されて、号泣しながらマスコミのインタビューを受けてみたいんだ。悲劇の人を演じて、己の屈折したちっぽけな感情を満足させたいんだ。だから君、くれぐれも頼むよ」
 親友宅に背を向け、私は歩き出した。スプラッタ映画を視聴する女児の物憂げな横顔が脳裏に甦る。
 あの女児は、私の親友を殺害し、遺体を細かく切断して、近所の空き地にでも捨てたに違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マグカップ

高本 顕杜
大衆娯楽
マグカップが割れた――それは、亡くなった妻からのプレゼントだった 。 龍造は、マグカップを床に落として割ってしまった。そのマグカップは、病気で亡くなった妻の倫子が、いつかのプレゼントでくれた物だった。しかし、伸ばされた手は破片に触れることなく止まった。  ――いや、もういいか……捨てよう。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...