80 / 200
害虫を殺す
しおりを挟む
我が家の庭で最古参の老木が、冬に入って急に枯れ始めた。調べたところ、幹の至る所に、体長五ミリほどの、アブラムシに似た黒い虫がへばりついていることが判明した。殺虫剤の散布も考えたが、木の弱り具合を考えれば、薬品の使用は極力避けたい。乗り気はしなかったが、自力で取り除くことにした。
スコップの先でこそげると、虫は力なく、次から次へと幹から落下していく。地面に落ちた虫は、仰向けの姿勢で弱々しく脚を蠢かせたが、すぐに身動きをしなくなった。作業を繰り返すうちに、木の周囲の地面は黒い粒でいっぱいになった。それを箒で掃き集めてゴミ袋に入れ、私はその日の仕事を終えた。
翌日、改めて木を眺めたところ、樹皮の僅かな窪みに体を埋めた個体が難を逃れていることが分かった。私は爪楊枝を持ち出し、生き残りを一匹ずつ潰していった。虫の体は極めて柔らかく、ぷちゅり、と簡単に爪楊枝に貫かれ、呆気なく死んでいく。手間のかかる作業だったが、それをしている時の私は、不思議と集中力を切らすことがなかった。
虫を潰す作業を、私は出勤前に欠かさず行った。駆除すべき虫の数は膨大だったが、冬を迎えて繁殖能力を失っていた彼らは、潰せば潰すだけ数が減っていくため、達成感があった。来る日も来る日も、爪楊枝を武器に彼らを殺し続けた。
大量発生を確認した一週間後の朝、ふと思い立ち、出勤前の空き時間を利用して、例の黒い虫についてインターネットで調べてみた。とあるサイトの解説によると、その虫は異常気象の年に大量発生するが、植物に直接的な害を及ぼすことはない上、生命力に乏しく、二・三週間程度で死に絶えるので、積極的に駆除する必要は認められないという。
口角を微笑みに歪め、パソコンの電源を落として庭に出る。
老木の前に立った私は、嗜虐的な薄ら笑いを顔全体に広げると、依然として幹に大量に貼りついている黒く小さな虫を、一匹一匹、爪楊枝の先でぷちゅぷちゅと潰していった。
スコップの先でこそげると、虫は力なく、次から次へと幹から落下していく。地面に落ちた虫は、仰向けの姿勢で弱々しく脚を蠢かせたが、すぐに身動きをしなくなった。作業を繰り返すうちに、木の周囲の地面は黒い粒でいっぱいになった。それを箒で掃き集めてゴミ袋に入れ、私はその日の仕事を終えた。
翌日、改めて木を眺めたところ、樹皮の僅かな窪みに体を埋めた個体が難を逃れていることが分かった。私は爪楊枝を持ち出し、生き残りを一匹ずつ潰していった。虫の体は極めて柔らかく、ぷちゅり、と簡単に爪楊枝に貫かれ、呆気なく死んでいく。手間のかかる作業だったが、それをしている時の私は、不思議と集中力を切らすことがなかった。
虫を潰す作業を、私は出勤前に欠かさず行った。駆除すべき虫の数は膨大だったが、冬を迎えて繁殖能力を失っていた彼らは、潰せば潰すだけ数が減っていくため、達成感があった。来る日も来る日も、爪楊枝を武器に彼らを殺し続けた。
大量発生を確認した一週間後の朝、ふと思い立ち、出勤前の空き時間を利用して、例の黒い虫についてインターネットで調べてみた。とあるサイトの解説によると、その虫は異常気象の年に大量発生するが、植物に直接的な害を及ぼすことはない上、生命力に乏しく、二・三週間程度で死に絶えるので、積極的に駆除する必要は認められないという。
口角を微笑みに歪め、パソコンの電源を落として庭に出る。
老木の前に立った私は、嗜虐的な薄ら笑いを顔全体に広げると、依然として幹に大量に貼りついている黒く小さな虫を、一匹一匹、爪楊枝の先でぷちゅぷちゅと潰していった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる