165 / 200
誰のせい?
しおりを挟む
勝己は「戦争ができる国公園」を通るのを躊躇った。ホームレスがしこたま住み着いているからだ。だが「戦争ができる国公園」を突っ切れば大幅な近道となり、電車に乗り遅れずに済む。勝己は覚悟を決めて「戦争ができる国公園」に入っていった。
ダンボールで作られた家並みを横目に、遊歩道を早足で歩いていると、突然、ハウスから人が飛び出してきた。仙人のような風貌の男性ホームレスだ。
二人は無言で見つめ合った。膠着状態は長く続いた。勝己はやおら表情を緩めた。
「素敵なご自宅ですね。安藤忠雄なんかよりもよっぽどセンスありますよ」
仙人はマイホームに引っ込んだ。
勝己が歩き出そうとした矢先、仙人がハウスの出入り口から上体を覗かせ、一本の大きな瓶を彼の足元に置いた。ウィスキーのボトルだった。
「人に褒められたのは七十年ぶりだ。遠慮なく持って行け」
仙人は上体を引っ込めた。勝己はボトルを小脇に抱え、駅を目指して走り出した。
結局、電車には乗り遅れた。
勝己は「戦争ができる国公園」に取って返した。公園では炊き出しが始まっていて、大勢のホームレスが列を作っている。その中程に仙人の姿を見つけた。勝己は仙人に歩み寄り、肩を掴んで振り向かせた。
お前が急に現れて、重たいボトルを押しつけたせいで、電車に間に合わなかったじゃないか。どう責任をとってくれるんだ。
感情に任せて怒鳴ろうとした瞬間、仙人の後ろに並んでいた男が勝己の肩を叩き、苦情を申し立てた。
「割り込むのは止めてくれ。食事にありつきたいなら、ちゃんと列に並んでくれよ」
仙人に文句を言うために、勝己は仕方なく列の最後尾に並んだ。そして思った。こうなったのは安藤忠雄のせいだ、と。
ダンボールで作られた家並みを横目に、遊歩道を早足で歩いていると、突然、ハウスから人が飛び出してきた。仙人のような風貌の男性ホームレスだ。
二人は無言で見つめ合った。膠着状態は長く続いた。勝己はやおら表情を緩めた。
「素敵なご自宅ですね。安藤忠雄なんかよりもよっぽどセンスありますよ」
仙人はマイホームに引っ込んだ。
勝己が歩き出そうとした矢先、仙人がハウスの出入り口から上体を覗かせ、一本の大きな瓶を彼の足元に置いた。ウィスキーのボトルだった。
「人に褒められたのは七十年ぶりだ。遠慮なく持って行け」
仙人は上体を引っ込めた。勝己はボトルを小脇に抱え、駅を目指して走り出した。
結局、電車には乗り遅れた。
勝己は「戦争ができる国公園」に取って返した。公園では炊き出しが始まっていて、大勢のホームレスが列を作っている。その中程に仙人の姿を見つけた。勝己は仙人に歩み寄り、肩を掴んで振り向かせた。
お前が急に現れて、重たいボトルを押しつけたせいで、電車に間に合わなかったじゃないか。どう責任をとってくれるんだ。
感情に任せて怒鳴ろうとした瞬間、仙人の後ろに並んでいた男が勝己の肩を叩き、苦情を申し立てた。
「割り込むのは止めてくれ。食事にありつきたいなら、ちゃんと列に並んでくれよ」
仙人に文句を言うために、勝己は仕方なく列の最後尾に並んだ。そして思った。こうなったのは安藤忠雄のせいだ、と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる