塵埃抄

阿波野治

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誰のせい?

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 勝己は「戦争ができる国公園」を通るのを躊躇った。ホームレスがしこたま住み着いているからだ。だが「戦争ができる国公園」を突っ切れば大幅な近道となり、電車に乗り遅れずに済む。勝己は覚悟を決めて「戦争ができる国公園」に入っていった。
 ダンボールで作られた家並みを横目に、遊歩道を早足で歩いていると、突然、ハウスから人が飛び出してきた。仙人のような風貌の男性ホームレスだ。
 二人は無言で見つめ合った。膠着状態は長く続いた。勝己はやおら表情を緩めた。
「素敵なご自宅ですね。安藤忠雄なんかよりもよっぽどセンスありますよ」
 仙人はマイホームに引っ込んだ。
 勝己が歩き出そうとした矢先、仙人がハウスの出入り口から上体を覗かせ、一本の大きな瓶を彼の足元に置いた。ウィスキーのボトルだった。
「人に褒められたのは七十年ぶりだ。遠慮なく持って行け」
 仙人は上体を引っ込めた。勝己はボトルを小脇に抱え、駅を目指して走り出した。
 結局、電車には乗り遅れた。
 勝己は「戦争ができる国公園」に取って返した。公園では炊き出しが始まっていて、大勢のホームレスが列を作っている。その中程に仙人の姿を見つけた。勝己は仙人に歩み寄り、肩を掴んで振り向かせた。
 お前が急に現れて、重たいボトルを押しつけたせいで、電車に間に合わなかったじゃないか。どう責任をとってくれるんだ。
 感情に任せて怒鳴ろうとした瞬間、仙人の後ろに並んでいた男が勝己の肩を叩き、苦情を申し立てた。
「割り込むのは止めてくれ。食事にありつきたいなら、ちゃんと列に並んでくれよ」
 仙人に文句を言うために、勝己は仕方なく列の最後尾に並んだ。そして思った。こうなったのは安藤忠雄のせいだ、と。
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