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烏賊烏賊烏賊
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元日の交通整理の仕事は、だるい。体力的に、という意味ではない。大量発生する、ルールを守らない身勝手なアホどもの相手をするのが、精神的にだるいのだ。
あまりにもだるかったので、制服のポケットからスマホを取り出し、弄り始める。すると、様子を見に来たらしい同僚の小田さんに見つかり、雷を落とされた。
「馬鹿野郎! 身を粉にして働かんかい!」
俺は「分かりました」と答え、体を粉末状に分解させ、風に乗ってその場から離脱した。
やがて神社に辿り着いた。粉末を結合させて人間の体に戻る。鳥居を潜り、左右に屋台が建ち並んだ、参拝客で賑わう参道を歩き始める。
本殿まであと少しという時、珍しく閑古鳥が鳴いている屋台を見かけた。イカ焼きの屋台だ。参拝客は屋台の前で足を止めるどころか、大きく避けるように歩いている。原因は火を見るよりも明らかだった。焼き網の上のイカ焼きから大量の黒煙が発生し、焦げ臭い臭いを周囲に撒き散らしているのだ。
なんとはなしに興味を惹かれ、問題の屋台に歩み寄る。黒焦げのイカ焼きと格闘していた初老の男性店主が急に喋り出した。
「私の故郷の新湊は漁業が盛んな土地柄で、食べられなくなった魚料理を復活させる秘伝の方法が語り継がれています。それは、三十三歳の男性の肛門に料理の一部分を突っ込み、三十三秒間、微動だにせずに待つというものなんですが――」
店主が顔を上げた。蛸のような口をしていた。
「お客さん、やってくれなイカ?」
「その役目は俺が引き受けよう」
どこからか男の声が聞こえた。イカ焼きから立ち上る黒煙が生き物のように身をくねらせ始めた。それは人間の形になり、同僚の小田さんになった。
小田さんは店主からイカ焼きを受け取ると、「腹減ったぁ」と呟き、真っ黒に焦げたそれを頭から食べ始めた。
あまりにもだるかったので、制服のポケットからスマホを取り出し、弄り始める。すると、様子を見に来たらしい同僚の小田さんに見つかり、雷を落とされた。
「馬鹿野郎! 身を粉にして働かんかい!」
俺は「分かりました」と答え、体を粉末状に分解させ、風に乗ってその場から離脱した。
やがて神社に辿り着いた。粉末を結合させて人間の体に戻る。鳥居を潜り、左右に屋台が建ち並んだ、参拝客で賑わう参道を歩き始める。
本殿まであと少しという時、珍しく閑古鳥が鳴いている屋台を見かけた。イカ焼きの屋台だ。参拝客は屋台の前で足を止めるどころか、大きく避けるように歩いている。原因は火を見るよりも明らかだった。焼き網の上のイカ焼きから大量の黒煙が発生し、焦げ臭い臭いを周囲に撒き散らしているのだ。
なんとはなしに興味を惹かれ、問題の屋台に歩み寄る。黒焦げのイカ焼きと格闘していた初老の男性店主が急に喋り出した。
「私の故郷の新湊は漁業が盛んな土地柄で、食べられなくなった魚料理を復活させる秘伝の方法が語り継がれています。それは、三十三歳の男性の肛門に料理の一部分を突っ込み、三十三秒間、微動だにせずに待つというものなんですが――」
店主が顔を上げた。蛸のような口をしていた。
「お客さん、やってくれなイカ?」
「その役目は俺が引き受けよう」
どこからか男の声が聞こえた。イカ焼きから立ち上る黒煙が生き物のように身をくねらせ始めた。それは人間の形になり、同僚の小田さんになった。
小田さんは店主からイカ焼きを受け取ると、「腹減ったぁ」と呟き、真っ黒に焦げたそれを頭から食べ始めた。
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