不都合な幻覚

阿波野治

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赤く蒼い星 一

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 母さん。
 いつものことながら迅速な返事、ありがとう。俺の砂を噛むような日常に潤いをもたらしてくれて、ありがたいなって心から思うよ。母さんに感謝、神に感謝、太古の昔から連綿と続く手紙文化に感謝だね。

 でも、正直、「幻覚だったんじゃない?」っていう母さんの回答には失望したよ。
 聡明な母さんには説明の必要はないと思うけど、幻覚説が正解の可能性がないっていう意味じゃないよ。報告した事実は嘘だと丸ごと否定する姿勢、それに誠意がなくて、母さんらしくなくて馬鹿げているということだよ。
 さらに言うなら、百歩譲って幻覚説を支持するのだとしても、もう少しもっともらしい理屈をこねてほしかったな。あなたが見たのは幻覚です、はい論破、じゃなくて。

 俺がこう思うのは、結局幻覚説が気に食わないだけ、母さんの態度がどうこうじゃないのかもっていう気もするけど、とにかく今回の返事はちょっと残念だったかな。母さんに裏切られること、失望することってなかなかないから、余計に残念だよ。非対面で、しかも文字形式だと、つい余計なことを書いちゃうものだけど、その愚を犯さないのが母さんだったはずなのに。
 でもまあ、この件についてこれ以上ぐちぐちと文句を言うつもりはない。手紙を書いていたときは機嫌が悪かったということにしておいて、本題に入るよ。二日連続でなかなかドラマティックな体験をしたから、ぜひとも書きたいし、ぜひとも読んでほしいんだ。


***


 いつものように昼前に目が覚めた。体調は悪くなった。まあ、普通の目覚めって感じかな。
 朝食にパンを食べているさなかに気がついたのは、我が家に残っている食料は今食べているパンが最後だということ。昨夜スーパーSで買い物をしたときに、明日の朝食はもう買ってあるっていう理由で、買うのは弁当とチョコレート菓子だけにしたけど、朝食以降までは頭が回らなかったというわけ。
 でも今になって思えば、昨夜の時点で本当は買うべきだって気がついていたんだけど、またあの子に会いたくて、スーパーSに行く大義名分が欲しいがために、わざと買わなかった気もする。

 真相はともあれ、会いたい気持ちと買い物をする必要性は厳然として揺るぎなかったから、飯を食って歯を磨いてアパートを出た。午前十一時を回っていたと思う。
 ゆっくり準備をすることもできたんだけど、意識してきびきび動いて、その時間帯に家を出るようにした。あの子が昼飯を買いに行くとすればちょうどこのくらいの時間帯なんじゃないかな、という読みがあったんだよ。直観と言い換えてもいい。
 俺に買わせて証拠隠滅したとはいえ、犯罪行為をした店にのこのことまた来るのかっていう疑問もあったんだけど、きっと来ると俺は信じた。確証があったわけじゃない。あの子が立ち寄る場所がスーパーマーケットSしか知らないから、そう思い込むことにしたんだ。
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