11 / 18
アパートに母 二
しおりを挟む
俺は通路の突き当たりまで進み、フェンスに向き直ってそこに両腕をのせる。
視線の先にはスーパーマーケットSがある。店舗の大きさのわりに広い駐車場も、出入口の自動ドアもよく見える。張り込みをするのにこれ以上の場所はなかなかないだろう。
俺の背後には部屋のドアがある。部屋番号は501。
入居者がいる部屋なのか、いないのか。現在住人は在宅なのか、留守なのか。どちらも外から得られる情報だけでは判断がつかない。部屋によっては、たとえば子どもが乗るおもちゃみたいな三輪車など、入居者がいることを示す物が置かれているものだけど、501号室はなにもない。ドアにネームプレートが掲げられてさえいない。
防犯の観点とか、面倒くさがって出していないとか、常識的な要因はいくつか考えられるから、入居者がいない証拠にはならない。なんというか、その中途半端さが不気味だった。いつ住人がドアを開けて顔を覗かせるか分からないと思うと、気味が悪いのを通り越して怖くなってくるし、落ち着かない。
ただ、他の階に移動したところで、のしかかってくるもののベクトルと程度は目くそ鼻くそだろう。小さく息を吐いて手すりに肘をつく。
もし住人に遭遇したらどう言い訳をしよう? 本来の目的のためにいまいち集中力を発揮できていない頭を懸命に励まし、その問題について考えてみる。
友だちの家に遊びに来たんですが、マンションを間違えたみたいです、すみません。そう謝って撤退するしかない気がする。まさか、張り込みをしているので、あなたの部屋の前のスペースを一・二時間くらい貸してください、なんて言うわけにもいかないし。
撤退したあとは、素直にマンションから去るんじゃなくて、一つ下の階に移動する。移動先の階でも住人に見つかったら、また階下に移動。これをくり返しつつ、五階分このやり方を使ってしまうまでにターゲットを発見できるよう、祈るしかないのでは?
自問に対して、もう一人の自分が「ま、それしかないよね」とため息混じりに答えて、方針は定まった。
そして、考えるべきことは特になくなった。
ようやく、混じり気のない心でスーパーマーケットSを注視する。
平日の昼間ということで客の出入りは少ない。車、自転車、徒歩、いずれの客も。周囲に建物はまばら。アパートとスーパーマーケットを隔てる道の行き交う車や人もまばら。時おり聞こえてくる名称不明の鳥の鳴き声がいかにものどかだ。
たとえば夕食の買い出しをするのだとしても、スーパーSにやって来るのはもう少し遅い時間帯なんじゃないか?
そんな疑念が胸を過ぎったのを境に、集中力はがたがたになった。
視線の先にはスーパーマーケットSがある。店舗の大きさのわりに広い駐車場も、出入口の自動ドアもよく見える。張り込みをするのにこれ以上の場所はなかなかないだろう。
俺の背後には部屋のドアがある。部屋番号は501。
入居者がいる部屋なのか、いないのか。現在住人は在宅なのか、留守なのか。どちらも外から得られる情報だけでは判断がつかない。部屋によっては、たとえば子どもが乗るおもちゃみたいな三輪車など、入居者がいることを示す物が置かれているものだけど、501号室はなにもない。ドアにネームプレートが掲げられてさえいない。
防犯の観点とか、面倒くさがって出していないとか、常識的な要因はいくつか考えられるから、入居者がいない証拠にはならない。なんというか、その中途半端さが不気味だった。いつ住人がドアを開けて顔を覗かせるか分からないと思うと、気味が悪いのを通り越して怖くなってくるし、落ち着かない。
ただ、他の階に移動したところで、のしかかってくるもののベクトルと程度は目くそ鼻くそだろう。小さく息を吐いて手すりに肘をつく。
もし住人に遭遇したらどう言い訳をしよう? 本来の目的のためにいまいち集中力を発揮できていない頭を懸命に励まし、その問題について考えてみる。
友だちの家に遊びに来たんですが、マンションを間違えたみたいです、すみません。そう謝って撤退するしかない気がする。まさか、張り込みをしているので、あなたの部屋の前のスペースを一・二時間くらい貸してください、なんて言うわけにもいかないし。
撤退したあとは、素直にマンションから去るんじゃなくて、一つ下の階に移動する。移動先の階でも住人に見つかったら、また階下に移動。これをくり返しつつ、五階分このやり方を使ってしまうまでにターゲットを発見できるよう、祈るしかないのでは?
自問に対して、もう一人の自分が「ま、それしかないよね」とため息混じりに答えて、方針は定まった。
そして、考えるべきことは特になくなった。
ようやく、混じり気のない心でスーパーマーケットSを注視する。
平日の昼間ということで客の出入りは少ない。車、自転車、徒歩、いずれの客も。周囲に建物はまばら。アパートとスーパーマーケットを隔てる道の行き交う車や人もまばら。時おり聞こえてくる名称不明の鳥の鳴き声がいかにものどかだ。
たとえば夕食の買い出しをするのだとしても、スーパーSにやって来るのはもう少し遅い時間帯なんじゃないか?
そんな疑念が胸を過ぎったのを境に、集中力はがたがたになった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる