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赤い花 九
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大型ホームセンターの一画で、ダリアは腰を屈め、難しい顔をしていた。視線の先には、総身を包装された包丁が、金属製のフックに吊されて陳列されている。何種類かある中で、もっとも安い商品を彼女の双眸は捉えている。先程までは、その商品を手にとって睨むように見つめては、ため息をついて元に戻す、ということをくり返していたが、今はフックにかかったものをただ眺めるばかりだ。真後ろを客が断続的に通り過ぎるが、誰も少女には見向きもしない。
「高すぎ。ばかじゃないの」
心の声がこぼれたのと、ダリアの真後ろで何者かが足を止めたのは、ほぼ同時だった。振り向くと、店のロゴマークがプリントされたエプロンを着用した女性店員が、ダリアのすぐ後ろにたたずんでいた。栗色の巻き毛の、整った目鼻立ちのその女性は、既視感を覚える穏やかな微笑みをたたえている。
「こんにちは」
先に女性が口を開いた。友好的で温和な口調だ。
「あなたと会うのはこれで二回目だね。私が誰だか、わかる?」
「うん。ステーキ店の店員のお姉さん」
女性の頬がほんのりと赤く色づく。少し遅れて純白の歯がこぼれた。
「当たり。覚えていてくれてうれしいな」
女性は素早く周囲に視線を走らせる。人がいないことを確かめると、腰を屈め、ダリアの頬に口づけをした。ダリアは目を丸くして店員を見返した。女性の顔に浮かぶ表情は、あどけなさが感じられるはにかみ笑いに変わっている。
「驚いた。前に店で見かけた印象的な女の子が、まさかこんなところにいるとは思わなかったから」
「お姉さん、この店で働いてるの? ステーキのお店は?」
「私、いろいろな店で働いているの。別に、あの店を辞めてここで働きはじめた、というわけじゃないからね。そんなことより、どうしたの。こんな物騒なものの売り場で」
「うん、実はね」
口にしかけた言葉をいったん呑み込み、フックに吊られた商品を一瞥する。
「明日のママの誕生日に、包丁をプレゼントしようと思ってるんだ。でも高くて、ダリアのお小遣いがほとんどなくなっちゃうから、買う勇気が出なくて」
その言葉に、女性の顔つきが真剣なものへと様変わりした。
「ちょっと待ってて」
女性はそう言い残し、店の奥へと走り去った。ダリアは女性が去った方角に顔を向けた姿勢のまま、大人しく命令に従う。商品も見ずにその場に屈み込んでいるせいか、近くを通る客の何割かは彼女に注目した。
五分ほどが経ち、女性が息を切らして戻ってきた。ダリアの前で腰を屈め、右手に持っているものを差し出す。五千円札だ。
ダリアは驚いた顔で女性を見返した。女性は肩で息をしながらも表情を大きく緩めた。
「高すぎ。ばかじゃないの」
心の声がこぼれたのと、ダリアの真後ろで何者かが足を止めたのは、ほぼ同時だった。振り向くと、店のロゴマークがプリントされたエプロンを着用した女性店員が、ダリアのすぐ後ろにたたずんでいた。栗色の巻き毛の、整った目鼻立ちのその女性は、既視感を覚える穏やかな微笑みをたたえている。
「こんにちは」
先に女性が口を開いた。友好的で温和な口調だ。
「あなたと会うのはこれで二回目だね。私が誰だか、わかる?」
「うん。ステーキ店の店員のお姉さん」
女性の頬がほんのりと赤く色づく。少し遅れて純白の歯がこぼれた。
「当たり。覚えていてくれてうれしいな」
女性は素早く周囲に視線を走らせる。人がいないことを確かめると、腰を屈め、ダリアの頬に口づけをした。ダリアは目を丸くして店員を見返した。女性の顔に浮かぶ表情は、あどけなさが感じられるはにかみ笑いに変わっている。
「驚いた。前に店で見かけた印象的な女の子が、まさかこんなところにいるとは思わなかったから」
「お姉さん、この店で働いてるの? ステーキのお店は?」
「私、いろいろな店で働いているの。別に、あの店を辞めてここで働きはじめた、というわけじゃないからね。そんなことより、どうしたの。こんな物騒なものの売り場で」
「うん、実はね」
口にしかけた言葉をいったん呑み込み、フックに吊られた商品を一瞥する。
「明日のママの誕生日に、包丁をプレゼントしようと思ってるんだ。でも高くて、ダリアのお小遣いがほとんどなくなっちゃうから、買う勇気が出なくて」
その言葉に、女性の顔つきが真剣なものへと様変わりした。
「ちょっと待ってて」
女性はそう言い残し、店の奥へと走り去った。ダリアは女性が去った方角に顔を向けた姿勢のまま、大人しく命令に従う。商品も見ずにその場に屈み込んでいるせいか、近くを通る客の何割かは彼女に注目した。
五分ほどが経ち、女性が息を切らして戻ってきた。ダリアの前で腰を屈め、右手に持っているものを差し出す。五千円札だ。
ダリアは驚いた顔で女性を見返した。女性は肩で息をしながらも表情を大きく緩めた。
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