鏖の季節

阿波野治

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 ひととおり話し終えると、沈黙が場を包んだ。もともと車も人も通らない寂しい道のため、完全なる無音に近い。

 真理愛は若干の居心地の悪さを感じている。
 トモノリは「困りごとができたら相談しに来て」と言ったけど、意気消沈しているわたしに気をつかって口にしたお世辞のようなもので、内心では迷惑なのかもしれない。あるいは、もっと軽い相談を想定していたとか。
 トモノリの横顔をうかがった限り、考えごとをしているのはたしからしい。ただ、無表情なので腹の中がまったく予想がつかず、それが不安を煽る。

「君は、今もその子たちを憎んでいるの? 復讐したいと思っているの?」
 トモノリがおもむろに真理愛のほうを向いたかと思うと、そう問うてきた。
 想いを受け止めてくれた喜びに、真理愛の頬は自然と緩んだ。ほとんど反射的に「はい」と答えようとしたが、はっとして思いとどまる。
 現状、憎しみも復讐心も、いっときよりも大幅に減退していることに気がついたからだ。おそらくは、トモノリに事情を話し、想いを吐き出したおかげで。

 あくまでも弱まっただけで、消滅したわけではない。ただ、うなずくのは返答としては誤りだと感じるくらいに、二つの感情は勢力を弱めた。

 トモノリは自らの靴先に視線を落として黙り込んでいる。
 真理愛が示した無反応という反応を、彼はどう捉えたのだろう? 提示された乏しい情報からでは、推測するのは難しい。
 ただ、真理愛に返答を求めている気配は伝わってくる。急かさないから、嘘のない、誠意ある言葉が欲しい、と。

 この機会をありがたく活用して、自分の気持ちを点検してみる。

 付き合いは長いが、愛着はさほどでもないぬいぐるみを壊されただけで、あんなにも強い憎しみを抱いたのは異常だ。自分でもそう思う。
 一方で、これまでの樹音たちの加害行為によって得た、諸々の負の感情が蓄積した結果の憎悪だと解釈すれば、復讐を願うだけの激しさにも納得がいく。

 しかし、今になって振り返れば、川真田樹音に対する憎悪は、復讐心へと発展した瞬間が最高点であって、平均値はそう高くないのかな、とも思う。殺したいほど憎い、復讐を実行せずにはいられない熱度に達していた時間は、ごく短かった。
 そもそも真理愛は暴力が好きではない。川真田たちからいじめられるようになってからは、広い意味での荒っぽい行為に対する嫌悪感はいっそう増した。
 復讐せずにはいられないほどの憎悪は、いっときの気の迷い。そう解釈するのが妥当だろう。

 川真田に対する憎悪は偽物ではない、と思う。ただ、それを復讐という方法で晴らさずにはいられないほどの激しい感情ではない。
 じゃあ、わたしはなにを望んでいるの?
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