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平穏が破られたのは突然だった。
SNSを観覧しながら弁当を食べていると、近づいてくる足音を耳が捉えた。
特等席で過ごす時間、真理愛はよく音楽を聴くが、食べているあいだは流さない。だからこそ、接近者を報せる音声情報をキャッチできた。
全身を鋼鉄のように緊張させて耳をそばだてる。足音の人物は、間違いなくこちらに向かってきている。
口の中に残っていた食べ物を呑み込む。なんらかの手を打ちたいが、動揺してしまって頭が働かない。気がついたときには、足音はすぐそばまで来ていた。目の前にそびえるブナの木を迂回して、足音の主が真理愛の前に姿を現した。
二重の衝撃が体を貫いた。
「湯田さん……?」
投げかけられた声は潤いを孕み、微弱な震えを帯びている。泣いている。それが驚きの一つ。
もう一つは、泣いているその人物が玲奈だったこと。
神宮寺玲奈――川真田樹音のグループに属する女子生徒。
「湯田さん、なんでこんなところにいるの? 幽霊かと思って、マジでびっくりしたんだけど」
洟を大きくすすり上げ、目元を指先で拭ってから、玲奈は疑問をぶつけてきた。そのあとも、さらに一回二回と小さく洟をすする。涙を拭ったのとは逆の手にはコンビニのレジ袋を提げている。
「びっくりしたのはこっちだよ。神宮寺さんはどうしてこんな場所に来たの? どうして泣いているの? 誰の仕業?」
いじめっ子ではない他のクラスメイト相手のように、喉につかえる感覚なく言葉を返せたことに、真理愛は我ながら驚いた。
言動に刺々しいところがなく、人当たりのよさと愛嬌を兼ね備えた神宮寺玲奈は、樹音のグループのメンバーの中では異質の存在だ。クラスメイトたちも、樹音たちに対しては顔色をうかがい、緊張感をもって接しているが、玲奈に対してはそれがない。樹音たちと比べれば圧倒的に付き合いやすいし、付き合って楽しい人間といえる。
ただ、真理愛の場合は話が別だ。いくら人当たりがよかろうが、愛嬌があろうが、真理愛を虐げるという意味で樹音たちと同類だからだ。
裏表がある、腹の底ではなにを考えているかわからない、嫌なやつ。
神宮寺玲奈に対する認識を最小限の言葉で言い表すならば、そうなる。とにかく乱暴で攻撃的な樹音とはまた違った意味で嫌悪感を覚える相手だ。
そんな玲奈相手に、気安くといっても誇張ではないくらいに造作なく、言葉を返せた。相手が泣いているという特殊な事情がある、とはいえ。
「ちょっとまあ、いろいろあって。一人になりたくて歩き回っていたんだけど、いい場所が見つからなくて、やっと見つけたと思ったら湯田さんがいて」
「そうだったんだ。なにがあったか話せる?」
「うん。ていうか、話したい。隣、いい?」
真理愛が横に置いていたものを膝の上に移動させると、玲奈はすかさず腰を下ろした。洟を一回大きくすすり、話しはじめた。
SNSを観覧しながら弁当を食べていると、近づいてくる足音を耳が捉えた。
特等席で過ごす時間、真理愛はよく音楽を聴くが、食べているあいだは流さない。だからこそ、接近者を報せる音声情報をキャッチできた。
全身を鋼鉄のように緊張させて耳をそばだてる。足音の人物は、間違いなくこちらに向かってきている。
口の中に残っていた食べ物を呑み込む。なんらかの手を打ちたいが、動揺してしまって頭が働かない。気がついたときには、足音はすぐそばまで来ていた。目の前にそびえるブナの木を迂回して、足音の主が真理愛の前に姿を現した。
二重の衝撃が体を貫いた。
「湯田さん……?」
投げかけられた声は潤いを孕み、微弱な震えを帯びている。泣いている。それが驚きの一つ。
もう一つは、泣いているその人物が玲奈だったこと。
神宮寺玲奈――川真田樹音のグループに属する女子生徒。
「湯田さん、なんでこんなところにいるの? 幽霊かと思って、マジでびっくりしたんだけど」
洟を大きくすすり上げ、目元を指先で拭ってから、玲奈は疑問をぶつけてきた。そのあとも、さらに一回二回と小さく洟をすする。涙を拭ったのとは逆の手にはコンビニのレジ袋を提げている。
「びっくりしたのはこっちだよ。神宮寺さんはどうしてこんな場所に来たの? どうして泣いているの? 誰の仕業?」
いじめっ子ではない他のクラスメイト相手のように、喉につかえる感覚なく言葉を返せたことに、真理愛は我ながら驚いた。
言動に刺々しいところがなく、人当たりのよさと愛嬌を兼ね備えた神宮寺玲奈は、樹音のグループのメンバーの中では異質の存在だ。クラスメイトたちも、樹音たちに対しては顔色をうかがい、緊張感をもって接しているが、玲奈に対してはそれがない。樹音たちと比べれば圧倒的に付き合いやすいし、付き合って楽しい人間といえる。
ただ、真理愛の場合は話が別だ。いくら人当たりがよかろうが、愛嬌があろうが、真理愛を虐げるという意味で樹音たちと同類だからだ。
裏表がある、腹の底ではなにを考えているかわからない、嫌なやつ。
神宮寺玲奈に対する認識を最小限の言葉で言い表すならば、そうなる。とにかく乱暴で攻撃的な樹音とはまた違った意味で嫌悪感を覚える相手だ。
そんな玲奈相手に、気安くといっても誇張ではないくらいに造作なく、言葉を返せた。相手が泣いているという特殊な事情がある、とはいえ。
「ちょっとまあ、いろいろあって。一人になりたくて歩き回っていたんだけど、いい場所が見つからなくて、やっと見つけたと思ったら湯田さんがいて」
「そうだったんだ。なにがあったか話せる?」
「うん。ていうか、話したい。隣、いい?」
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