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真理愛が通うK中学校の校庭の一隅には、樹や雑草が鬱蒼と生い茂った区域がある。
樹幹や枝葉が壁のようになったその向こう側にひっそりと、粗末な木製ベンチが一脚だけ置かれている。
彼女は最近、もっぱらそのベンチで昼食をとっている。
樹音たちからいじめられるようになってからも、しばらくは教室の自分の机で食べていた。
クラスの一番の権力者である川真田樹音の標的にされた真理愛といっしょに食べてくれる生徒は、当然のことながら一人もいない。加害者一派から思い出したように投げかけられる侮蔑の言葉に、思わず箸が止まる。発言がやんだあとも、フリーズしたままなかなか食事を再開できない。
地獄のような時間を重ねる中で、無理に教室で食べる理由も義務もなにもない、ということに不意に気がついた。目から鱗が落ちた。樹音たちを恐れる気持ちから視野が狭まっていたのを差し引いても、気づくのがあまりにも遅すぎた。
翌日の昼休み時間、真理愛は弁当と水筒を手に席を立った。呼び止められるのではないかと、持っているものを取り落としそうになるくらいに手が震えた。
しかし、樹音たちは真理愛には見向きもしなかった。今週末の予定を話し合うのと、午前中の活動で空腹した体に食物を供給するのとに夢中らしい。厳密には一人か二人、真理愛が教室から出ていくのを目の端に捉えたようだが、無反応だった。
新しい食事場所の選定には手間取った。屋上は立ち入り禁止だし、日当たりがよく、座る場所がたくさん用意されている中庭は人口密度が高く、途中から加わるのは気乗りがしない。途方に暮れてさ迷い、いわゆる便所飯も真剣に検討しはじめたころ、偶然にも木陰に置かれているベンチを発見した。
はじめは誰かがここまで来るかもしれないと身構えてしまい、食事がなかなか喉を通らなかった。しかし、普段の倍近くの時間をかけて弁当箱を空にするまでに、来訪者は一人も現れなかった。それどころか、足音や人の気配が接近してくることすらも。
昼食を終えて教室に戻るときは、鼓動が駆け足になった。しかし、樹音たちの様子をうかがった限りでは、誰も真理愛が教室から逃げたことをリーダーには報告しなかったらしい。「昼食は教室の外で食べてもいい」と気がつくまでの苦しかった時間の長さを思えば、拍子抜けするくらいに呆気ない脱出成功だった。
翌日からはリラックスして食事がとれた。弁当箱を空にしたあと、有線イヤホンを介してお気に入りの楽曲を聴きながら、鼻歌を歌う余裕さえ生まれた。
季節がもう少し進めば虫が出るだろう。梅雨の時季はどうするのかという問題もある。
でも今はただ、安らげるひとときを満喫していたかった。
樹幹や枝葉が壁のようになったその向こう側にひっそりと、粗末な木製ベンチが一脚だけ置かれている。
彼女は最近、もっぱらそのベンチで昼食をとっている。
樹音たちからいじめられるようになってからも、しばらくは教室の自分の机で食べていた。
クラスの一番の権力者である川真田樹音の標的にされた真理愛といっしょに食べてくれる生徒は、当然のことながら一人もいない。加害者一派から思い出したように投げかけられる侮蔑の言葉に、思わず箸が止まる。発言がやんだあとも、フリーズしたままなかなか食事を再開できない。
地獄のような時間を重ねる中で、無理に教室で食べる理由も義務もなにもない、ということに不意に気がついた。目から鱗が落ちた。樹音たちを恐れる気持ちから視野が狭まっていたのを差し引いても、気づくのがあまりにも遅すぎた。
翌日の昼休み時間、真理愛は弁当と水筒を手に席を立った。呼び止められるのではないかと、持っているものを取り落としそうになるくらいに手が震えた。
しかし、樹音たちは真理愛には見向きもしなかった。今週末の予定を話し合うのと、午前中の活動で空腹した体に食物を供給するのとに夢中らしい。厳密には一人か二人、真理愛が教室から出ていくのを目の端に捉えたようだが、無反応だった。
新しい食事場所の選定には手間取った。屋上は立ち入り禁止だし、日当たりがよく、座る場所がたくさん用意されている中庭は人口密度が高く、途中から加わるのは気乗りがしない。途方に暮れてさ迷い、いわゆる便所飯も真剣に検討しはじめたころ、偶然にも木陰に置かれているベンチを発見した。
はじめは誰かがここまで来るかもしれないと身構えてしまい、食事がなかなか喉を通らなかった。しかし、普段の倍近くの時間をかけて弁当箱を空にするまでに、来訪者は一人も現れなかった。それどころか、足音や人の気配が接近してくることすらも。
昼食を終えて教室に戻るときは、鼓動が駆け足になった。しかし、樹音たちの様子をうかがった限りでは、誰も真理愛が教室から逃げたことをリーダーには報告しなかったらしい。「昼食は教室の外で食べてもいい」と気がつくまでの苦しかった時間の長さを思えば、拍子抜けするくらいに呆気ない脱出成功だった。
翌日からはリラックスして食事がとれた。弁当箱を空にしたあと、有線イヤホンを介してお気に入りの楽曲を聴きながら、鼻歌を歌う余裕さえ生まれた。
季節がもう少し進めば虫が出るだろう。梅雨の時季はどうするのかという問題もある。
でも今はただ、安らげるひとときを満喫していたかった。
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