鏖の季節

阿波野治

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 隼人としては、トモノリは魯鈍な男だと思い込みたかった。真理愛は己の精神状態を安定あせるために利用しているだけで、十代の少女の恋愛対象には値しない人間だと。
 しかし、無理があった。

 トモノリは言動にほとんど感情を込めないという意味で、隼人が定義する魯鈍な人間に属する。しかし、工作をする姿は活き活きとしていた。手際がよく、洗練されている印象を受けた。真理愛と会話するさいの、唇が滑らかに動くさまや、彼の発言に対する彼女のリアクションを見た限り、語り口はなかなか巧妙のようだ。
 だからこそ、隼人はトモノリに対して攻撃的な気持ちになる。

 なにか襤褸を出さないだろうか。たとえば、浅ましい下心から湯田さんに危害を及ぼそうと試みる、だとか。そうすれば、心置きなくあの男に制裁を加えられるのに――。

 隼人が真理愛とトモノリを同時に想うとき、決まっておどろおどろしい破壊衝動が伴う。
 玲奈にもトモノリにも嫉妬する彼は、行き場のない感情の捌け口を無意識に求めていた。





 放課後、真理愛と玲奈ははじめて下校をともにすることになった。樹音が別のクラスの女友だちといっしょに帰るということで、残された玲奈たち取り巻き一同は、相談の結果ばらばらに帰ることになったのだ。

「残りもの同士で集団行動をとるんじゃなくてさ、たまには各自勝手に帰る形式でよくない? どうせ明日以降またいっしょになるんだから」
 そう発言して、どっちつかずだった一同の気持ちを確定させたのは、玲奈だった。

 玲奈は樹音が不在の場合、リーダー的な役回りを演じることが多い。樹音のように有無を言わさない暴君として振る舞うのではなく、言葉を巧みに操り、みなの言動を自らが望む方向に誘導するのだ。しかもそれを、みなからの恨みを買うことなく、玲奈が犯人だと悟られずにやってのける。彼女のそのような一面を知っている隼人でなければ、場をコントロールしているのが神宮寺玲奈だとはまず気がつけないだろう。
 玲奈はこの機会を利用して、真理愛と時間を共有しようとしている。隼人はそう看破した。

 先に教室を後にしたのは玲奈で、真理愛に目で合図を送ったのを隼人は見逃さなかった。少し遅れて教室を出た真理愛を追跡すると、案の定、校庭の隅の秘密のベンチへ向かった。そこで玲奈が待っていたのも予想どおりだ。
 玲奈はすぐさまベンチから立ち、二人は肩を並べて移動を開始した。自転車通学の真理愛のために駐輪場に寄り、それから正門を潜る。
 二人は話に夢中で、後方を含む周囲への注意が疎かになっている。現在は下校時間。同じ方向に向かう生徒であふれていて、流動的な障害物となっている。尾行するにはうってつけの環境というわけだ。
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