鏖の季節

阿波野治

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 二人は和気あいあいと言葉をやりとりしている。古くからの親友同士といった雰囲気で、隼人の腹の底で嫉妬の念が蠕動する。
 サツキツツジが咲き誇る通りに入ったのに前後して、二人のあいだでこんなやりとりが交わされた。

「そういえば何日か前、わたしの自転車のタイヤがパンクしていたよ。前輪なんだけど」
「そんなことがあったんだ」
「うん。行きは全然問題なくて、帰りに前のタイヤがおかしくなっているのを見つけて、それで気がついて。証拠はどこにもないから今までなにも言わなかったけど、あれは多分、っていうか絶対に川真田さんたちの仕業だよね」
「百パーセントそうだと思う。私は立ち会わなかったんだけど、何日か前に樹音が『湯田の自転車に細工しておいた』みたいなことを言ってた記憶があるから」
「そうだったんだ」
「うん、たしかに言ってた。自転車を一台だけ倒すとか、その程度のくだらない悪戯だろうと思っていたんだけど、まさかそんな悪質な真似をしていたとはね。パンクを見つけたあと、まりりんはどうしたの? 先生に助けを求めた?」
「ううん、押して帰った。なんていうか、被害に遭ったのに現場に長居したくなかったから。わかるかな? この気持ち」
「わかる気がする。今は直ってるみたいだけど、大変だったんじゃない?」
「うちの父親が工場で働いていて、機械の修理的なことは得意なの。その日のうちに直してもらったから、ほんと助かった」
「不幸中の幸いってやつだね。ていうか樹音たち、最悪だよね。やることが酷すぎる。普通に器物損壊じゃん」
「だよね。わたしには運よく直してくれる人が身近にいたけど、そうじゃなかったら大変だったと思う。修理代だってかかっただろうし」

 会話が続いているあいだはのめり込んでいるようにも感じられたが、呆気なく次の話題に移った。暗い過去なんてどうでもいい、今が明るく輝いているのだから。そう暗に表明するかのような切り替えの早さだった。
 ――二人は充実した青春を送っている。
 隼人は上下の歯をすり合わせ、自分にしか聞こえない不協和音を奏でた。

 二人の少女は三叉路を左に進む。
 隼人の足は分岐点で止まる。
 演技がかった挙動で肩を落とし、ため息をつく。そして、未練がましそうに左に続く道を数秒間睨んだのち、右の道へと進む。

「……あの二人を」
 どうにかしなければ。俯き、ふてくされたように靴底でアスファルトの路面を蹴飛ばしながら、隼人は道を先へ、先へと進む。
 さもなければ、大変なことになる。取り返しのつかない事態に陥ってしまう。俺にとっても、湯田さんにとっても。
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