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玲奈は川真田のグループに属する人間だ。よからぬことを企んでいるに決まっている。湯田さんと親密な関係であっていいはずがない。なにも知らない湯田さんに代わって、俺がなんとかしないといけない。
問題なのは、玲奈は口が上手いということ。
幼なじみで、以前は親しかったから、会話の機会を作るだけならなんとかなる――と、思う。ただ、果たして、あの玲奈を説き伏せられるのか。
言葉のぶつけ合いという形式での戦いで、玲奈を負かすビジョンを隼人は描けない。樹音の命令を受けての接近なのだとすれば、勝利を得るのはなおさら難しそうだ。説得が不首尾に終わり、玲奈が隼人の行動をリーダーに告げ口したとすれば、彼は確実に樹音の新たなる虐待の対象へと昇格する。
「……嫌だ」
その事態だけは避けたい。いくら愛する人と同じ立場でも、被害者はごめんだ。
しばし無心で歩く時間が続いた。やがて、日常からは少し距離を感じる物音を聞きとり、足を止めて顔を上げる。
トモノリだ。
何枚もの木板が重ねられた束の横で、地面に片膝をついてハンマーを振るっている。腰をかけるのに適当な大きさの木製の箱が、彼のかたわらに七・八個置かれている。
ハンマーを振るう手が止まり、トモノリは隼人のほうを向いた。手を動かしていたときも、隼人の姿を視界に捉えてからも、顔に無表情が貼りついていることには変わりない。
トモノリは視線を手元に戻し、作りかけの箱を九十度横方向に回転させた。作っているものの上部に板を宛がう。角と角を合わせる指づかいはいかにも繊細だ。左手で上の板を押さえ、右手でリズミカルにハンマーを叩きつける。ほんの軽く振るっているように見えるのに、高く心地よく音が響く。
隼人はトモノリへと歩を進める。
足を交互に動かしながら、彼は困惑していた。自分で自分の行動が信じられなかった。あのトモノリに自分から接触しようとするなんて。
最初こそ怖いような気持ちもあったが、自分の靴音を聞いているうちに肝が据わってきた。湯田さんを悩ませる二大勢力のうちの一角を、この俺の手で潰すのだ。そう思ったあとで、それこそが原動力なのだと悟る。
足音はトモノリにも聞こえたらしく、作業の手を止めて再び隼人に注目した。唇が薄く開いた顔は、呆気にとられているように見えなくもないが、総合的には余裕が感じられる。隼人にとってその態度は癪に障ると同時に、重圧でもある。弱気の虫が腹の底で蠢きはじめたが、腹筋に力を込めて鎮圧する。
直線距離にして五メートル弱まで迫ったところで足を止める。トモノリがいきなりハンマーを投げつけてきたとしても、両腕でガード可能な間合いだ。
問題なのは、玲奈は口が上手いということ。
幼なじみで、以前は親しかったから、会話の機会を作るだけならなんとかなる――と、思う。ただ、果たして、あの玲奈を説き伏せられるのか。
言葉のぶつけ合いという形式での戦いで、玲奈を負かすビジョンを隼人は描けない。樹音の命令を受けての接近なのだとすれば、勝利を得るのはなおさら難しそうだ。説得が不首尾に終わり、玲奈が隼人の行動をリーダーに告げ口したとすれば、彼は確実に樹音の新たなる虐待の対象へと昇格する。
「……嫌だ」
その事態だけは避けたい。いくら愛する人と同じ立場でも、被害者はごめんだ。
しばし無心で歩く時間が続いた。やがて、日常からは少し距離を感じる物音を聞きとり、足を止めて顔を上げる。
トモノリだ。
何枚もの木板が重ねられた束の横で、地面に片膝をついてハンマーを振るっている。腰をかけるのに適当な大きさの木製の箱が、彼のかたわらに七・八個置かれている。
ハンマーを振るう手が止まり、トモノリは隼人のほうを向いた。手を動かしていたときも、隼人の姿を視界に捉えてからも、顔に無表情が貼りついていることには変わりない。
トモノリは視線を手元に戻し、作りかけの箱を九十度横方向に回転させた。作っているものの上部に板を宛がう。角と角を合わせる指づかいはいかにも繊細だ。左手で上の板を押さえ、右手でリズミカルにハンマーを叩きつける。ほんの軽く振るっているように見えるのに、高く心地よく音が響く。
隼人はトモノリへと歩を進める。
足を交互に動かしながら、彼は困惑していた。自分で自分の行動が信じられなかった。あのトモノリに自分から接触しようとするなんて。
最初こそ怖いような気持ちもあったが、自分の靴音を聞いているうちに肝が据わってきた。湯田さんを悩ませる二大勢力のうちの一角を、この俺の手で潰すのだ。そう思ったあとで、それこそが原動力なのだと悟る。
足音はトモノリにも聞こえたらしく、作業の手を止めて再び隼人に注目した。唇が薄く開いた顔は、呆気にとられているように見えなくもないが、総合的には余裕が感じられる。隼人にとってその態度は癪に障ると同時に、重圧でもある。弱気の虫が腹の底で蠢きはじめたが、腹筋に力を込めて鎮圧する。
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